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江川紹子の「事件ウオッチ」第117回

【日産ゴーン氏逮捕】報道に抱く違和感 変わらぬ情報操作で真実は何処に

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 検察が勾留請求をすることは、捜査の機微にわたることでもなんでもないだろう。「訴訟に関する書類」でもない。そういう情報すら、検察は記者会見では語らず、記者クラブの記者たち限定で情報提供しているのだ。

 それもあってか、記者クラブの記者たちは、記者会見ではあまり質問しない。オープンな場で聞いても、どうせ答えないだろうから、後で非公開の場で個別に取材しようと考えているのだろう。

 ちなみに、私や海外メディアの記者たちの入館証は、記者クラブの記者たちと違い、会見場にしか行くことができない。それ以外に立ち入れるのはトイレくらいだ。庁舎の出入り口と会見場の間は「ご案内」と称して見張り役がついており、会見後に次席検事の執務室に行って、補足の質問をしたりすることは不可能だ。

 記者会見など公式の場での発表はほとんど行わないにもかかわらず、各メディアでは検察が主たる情報源と思われる報道が連日大きくなされている。記事では、「関係者によると」「関係者への取材でわかった」などと取材源がぼかされている。情報の出所をまったく示さずに「……ということがわかった」式の記事も多い。テレビの情報番組などは、こうした情報を基にスタジオ展開し、ゴーン氏がいかにケチであり、いかに会社を私物化しているかを描いていく。

 ただ、書かれている事実がどれほど正確なのか、事件の全体像をとらえたものなのか、いまだよくわからない。それは、肝心の容疑事実についても同様である。逮捕された直後の報道に接した人の多くは、ゴーン氏が5年間にわたって、支払いを受けた報酬の半分を隠していたと受け止めただろう。

 しかしその後の報道では、有価証券報告書に記載されなかった報酬は、未だゴーン氏にはわたっておらず、退職後に支払われることになっていた、という。しかも、それは取締役会で了承されたわけではなく、日産でその分の積み立てがなされていたわけでもなさそうだ。検察は、それでも犯罪が成立すると考えているようだが、当初は伏せられていた事実が明らかになると、事件の印象はかなり異なる。

 当初の報道には、こんなものもあった。

「他の取締役の報酬の一部がゴーン会長に流れていた疑いがあることが関係者への取材で明らかになった。ゴーン会長には、取締役への報酬総額を配分する権限があったといい、東京地検特捜部がゴーン会長を巡る会社資金の流れを追っている模様だ」

 11月21日付毎日新聞の一面トップの記事で、「他役員の報酬付け替えか ゴーン会長、配分権握る」との黒地白抜きの見出しがついている。報酬を隠していただけでなく、他の取締役の報酬まで横取りするとは、なんと強欲なんだろうと読者は感じたに違いない。しかし、この報道に続報は見当たらず、いまだに真偽不明である。

 今回の事件では、朝日新聞が終始、報道を“リード”している。逮捕を報じる11月20日付朝刊では、社会面に来日の時にゴーン氏が乗っていた飛行機にタラップがつけられている写真を掲載し、検察職員が機内に踏み込む様子を記事に織り込むなど、事前に情報を得ていたことを誇示する書きぶり。以後27日まで連日、この事件が朝刊の一面トップを飾る力の入れようだ。書かれた内容も、常に他紙を先んじていた。

 たとえば27日付朝刊の一面トップには、こんな特ダネが載った。

「ゴーン容疑者が2008年、私的な投資で生じた約17億円の損失を日産に付け替えていた疑いがあることがわかった」「特捜部は、ゴーン前会長による会社の『私物化』を示す悪質な行為とみている模様だ」

「私的損失 日産に転嫁か」という4段見出しが立った。これで会社に損害を与えていれば、特別背任罪に問われる可能性がある。公訴時効は7年だが、被疑者が国外にいる間は時効の進行が停止される。

 メディア各社はこれを後追いした。しかし、28日にゴーン氏と接見した弁護人が、報道に反論。「検討したが実行していない」「当局からイリーガル(違法)と指摘があり、実行しなかった。日産に損失は与えていない」というゴーン氏の言葉を伝えた。朝日新聞は、この反論を29日付朝刊の社会面の下のほうに2段見出しで報じたが、その後ゴーン氏の主張を覆すような新たな事実は伝えていない。

 真偽はいずれ明らかにされるのだろうが、朝日の記事はゴーン氏の行為で肝心の日産に損失を与えたか否かという重要な点についてまったく触れていないこともあって、なんだか釈然としない。この記事については反論があったとはいえ、通常、弁護人はこの種の事件で報道にいちいち反応しない。被疑者が身柄拘束され、外に向かって自由に物が言えない中、真偽の確かめようのない、当局(おそらく検察)発と思われる情報を次々に大きく伝え、被疑者の悪い印象を広げる、という手法はどうなのか。

常態化した情報操作がもたらすものは

 同紙は、いわゆる「モリカケ」疑惑など、当局の問題に切り込む時には、入念な裏付け取材を行い、事実確認については慎重の上にも慎重を期しているようなのに、事件報道で当局からもたらされた情報については、さほどの事実確認はしなくてもよい、という二重基準があるように見える。

 ゴーン氏と日産の関係、あるいはゴーン氏支配下の日産には、相当に問題がありそうであり、徹底解明は必要である。しかし、それは事実に基づいたものでなければならない。捜査情報について、真偽をよく精査してから伝えるために時間がかかっても、読者・視聴者は全然困らないだろう。それなのにメディアは先を急ぐ。検察は、情報提供でそれに協力する。あるいは、検察の情報操作にメディアが協力するとも言えるだろう。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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