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米山秀隆「不動産の真実」

タワーマンション、ある意味で供給過剰状態…修繕資金不足で積立金2.5倍の例も

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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地域のキャパシティ不足をどう捉えるか

 
 しかし最近は、第二の視点、すなわちタワーマンションの供給がインフラや教育施設のキャパシティを上回る地域が現れており、その意味で供給過剰だとの捉え方もされるようになってきた。問題の深刻化により、都内ではマンション建設の抑制に舵を切る区も出てきた。

 江東区では、東京メトロ豊洲駅周辺などにタワーマンションが林立しているが、10月からタワーマンションなどの大規模マンション(151戸以上)に、少人数世帯向けのワンルーム(25~40平方メートル)や三世代同居向けの住戸(90平方メートル以上)を一定数整備するよう求めることとした。子育て世代などに人気の70平方メートル前後(40~90平方メートル)のファミリー世帯向け住戸を減らすことで、人口流入を抑制する狙いがある。

 江東区の人口は1997年に36.8万人にまで落ち込んだが、直近では51.3万人にまで増加した。江東区では30戸以上のマンションを開発する事業者から、1戸当たり125万円の「公共施設整備協力金」の拠出を求めており、2007年以降は、豊洲・有明地域の小中学校地域の整備に200億円を投じてきた。しかし、キャパシティは限界に近づいている。

 一方、中央区には都営地下鉄勝どき駅、東京メトロ・都営地下鉄月島駅周辺といったタワーマンション密集地域があるが、中央区はそうした地域を含む区内の8割の地域において、これまで一定の要件を満たすことで容積率の上限を1.4倍まで緩和していた制度を2019年7月に廃止する方針を発表した。ただしこの措置は、中低層マンションに適用されてきた経緯があり、数十戸程度のマンション開発は抑制されるものの、タワーマンションは都などの緩和制度によって建て続けられる。

 中央区の人口は1953年の17.2万人から、1997年には7.2万人まで落ち込んだ。この対策として中央区は定住人口10万人の目標を掲げ、住宅誘導政策を約20年間続けてきた。この結果、タワーマンションを中心に大幅に人口が増え、直近の人口は16.2万にまで増加した。

 タワーマンションの供給に対し、地域のキャパシティ不足を理由とする供給抑制策については、日本全体の生産性という観点から批判的な意見もある。すなわち、知識集約型産業では、人的資本の高い人々の集積が生産性向上につながるため、人々の集積を地域のキャパシティ不足から抑制するような施策を講じるのは、日本全体の生産性向上にとってマイナスになるとの指摘である。この立場に立てば、供給は抑制すべきではなく、地域のキャパシティ拡大を、国も含めて支援していくべきということになる。

 その必要性を判断するためには、人口集積による便益と費用を総合的に評価する必要がある。しかし、今のところはそうした視点は欠いたまま、地域内のキャパシティとの対比によって、人口流入を抑制すべきとの判断がなされている。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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