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米山秀隆「不動産の真実」

タワーマンション、ある意味で供給過剰状態…修繕資金不足で積立金2.5倍の例も

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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中古価格が値崩れする可能性

 最後の第三の視点は、タワーマンションを含めたマンションという住まいの持続性をどのように考えるのかということとかかわる。タワーマンションの大規模修繕の事例はまだ少ないが、川口市の「エルザタワー55」(55階建て、650戸、1998年竣工)で2015~17年にかけて行われた1回目の大規模修繕の事例では12億円の費用がかかった。
 
 タワーマンションの大規模修繕では、その高さのため、足場を組んで外壁の修繕が行えない難点がある。ゴンドラによる作業が必要になるが、作業効率は悪く、強風のときには作業の中止を余儀なくされる。結果として工期は長期化し、費用も高くなる。1回目の修繕は済んでも、2回目の大規模修繕で必要となるエレベーターや給排水システムなどの交換にはより費用がかかると考えられる。エルザタワーの場合は、1回目の修繕は追加負担なしに賄えたが、2回目の修繕に向け、修繕積立金の値上げが検討されている。

 長期修繕計画の見直しには合意が必要であり、タワーマンションの場合は、多数の区分所有者がいて、また、投資目的の区分所有者が多い場合には、修繕積立金の値上げには消極的な姿勢が勝る場合も考えられる。それでも将来的に多額の費用がかかることを見越して、修繕積立金の値上げに踏み切るタワーマンションも出ている。

 その一例である武蔵小杉にある「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(59階建て、794戸、2009年竣工)は、長期修繕計画を見直した結果、大幅な資金不足が生じることがわかり、2013年に修繕積立金月額を約2.5倍に引き上げた。区分所有者の間で、適切な維持修繕によって資産価値を守り、ビンテージマンションを目指すとの意識合わせができたことなどが、大幅値上げに踏み切ることができた要因であった。

 将来的には、このように区分所有者の意識が高く、適切な維持修繕を行えるタワーマンションとそうではないタワーマンションに二極化する可能性がある。前者の場合、中古物件として高い価値を維持できると考えられるが、後者の場合、中古価格は値崩れする可能性がある。

 実際問題として、区分所有者の高い意識に基づいて資産価値を維持していくことは簡単なことではない。そうした問題を見越して、タワーマンションを購入しても10~15年ほどで売り抜けることを考えるべきだと指南する専門家も存在する。つまり、1回目の大規模修繕の前である。そうであれば、1回目の大規模修繕で積立金が不足していたとしても一時金を徴収されることもなく、値崩れしないまま高い価格で売却できる可能性が高いとの考え方である。

 こうした考え方は現時点で広まってはいないが、今後、2000年代に供給が増加したタワーマンションが続々1回目の大規模修繕を迎え、そこでの積立金不足や2回目に向けた積立金の大幅増額の必要性などが広く認識されるようになると、その時点で中古になっても高値で取り引きされていたタワーマンションが値崩れする可能性は否定できない。

 物件としての維持可能性に疑問符が付いたタワーマンションは、区分所有者の高齢化や空室化が進む中、必要な管理費用や修繕積立金を徴収することがさらに困難になり、スラム化に向かうという、現在、通常のマンションで進展しつつあることが、タワーマンションにも波及していくことになる。

 タワーマンションを購入する場合は、通常のマンションよりも維持修繕にお金がかかること、また多数の区分所有者がいて合意形成にも時間がかかることを見越し、管理組合を通じた日頃からのコミュニケーションがより一層重要になることを自覚する必要がある。しかし、そのような必要性はあまり自覚されておらず、マンションは戸建てと比べて近所付き合いの必要がなく、カギ1本で他人と関わらず生活できるとの利便性に引かれて購入する場合が多い。

 現実には、区分所有者が多数いるなか、定期的な大規模修繕を合意によって進めていかなければならないマンションのほうこそ近隣との密なコミュニケーションが必要になる。にもかかわらず、そのような必要性を理解しないまま購入していることは、マンションの持続性に影を落とし、将来的に売れない中古物件が大量に発生する可能性を高めているといえる。

必要な対策

 以上、タワーマンションの供給過剰問題について3つの視点から考えてきたが、次のように整理することができる。

 供給すれば売れることから、現時点では供給過剰になっているとはいえない。しかし、一部地域ではインフラや教育施設などのキャパシティを超えているケースもあり、その意味では供給過剰になっている。これに対しては、都市部に人的資本の高い人々の集積を図り、日本全体の生産性を高めていくという観点からは、いたずらに抑制すべきではなく、キャパシティを拡充すべきという見解もある。

 タワーマンションが人々の都心居住の要求を満たし、また、生産性向上に寄与する効果をもたらしているとしても、持続的な住まいでないとすれば、地域や日本にとって逆にマイナスとなる。タワーマンションの持続性を担保するためには、必要な修繕積立金を確保して適時に維持修繕を行い、すべてのタワーマンションがビンテージマンションとなって、中古物件としての価値が保たれていくような取り組みを行っていく必要がある。

 これは通常のマンションでも必要なことであり、今後は、タワーマンションを含むすべてのマンション購入者に対し、購入時に老朽化した場合のリスクや区分所有者の責任などの注意喚起を行う仕組みにすることが望ましい。長期修繕計画については、60年間の計画を義務付け、均等割で月々の修繕積立金を徴収し、当初から十分な額を積み立てていく形に変えるべきである。
(文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員) 

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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