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山田修「間違いだらけのビジネス戦略」

外資ファンドに子会社化されたパイオニア、「無給」宣言した森谷社長は即刻辞任すべきだ

文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント

 エレクトロニクスの特定領域でパイオニアの技術レベル、そしてポテンシャルは高いものと推定される。そしてその活用こそがパイオニアを再生するための肝となるはずだ。しかし多様で、まだシーズ(種)であろう技術要素を発掘し、評価する作業は、外部から乗り込む経営者には難しいことだろう。

 私の場合も、経営者を引退するまでに6つの会社を任されたが、開発志向の製造会社の場合は、進むべき技術分野の選定にはいつも苦慮したものである。だからベアリングは、パイオニアで他のプロパー役員は退任させた一方で森谷社長だけを残して、新体制でも采配を振るうことを許した、あるいはむしろベアリング側がそれを望んだと推察できる。

無給の社長など禁じ手ではないか

 森谷社長は、実はパイオニアで新任の社長である。今年の6月に常務から昇格したばかりである。新卒でパイオニアに入社して各部署を歴任したプロパー社員であり、創業家出身でもない。サラリーマン社長といってよいだろう。

 6月に新社長に昇格して最初の大仕事が、新卒から勤め上げてきたパイオニアを外国の投資ファンドに売り渡すこととなった。しかも、それを発表した7日の席では、社員3000人を削減することも発表した。そんななかで、プロパー役員のなかで自分だけが社長に居続ける。

 森谷社長はよほど寝覚めが悪い思いをしたのか、発表の席で「私の報酬はなくなる。貯金を取り崩しながら、会社の再成長をやり遂げたい」と吐露し、悲壮な覚悟を見せた。森谷氏の基本報酬は19年1月からゼロとなる。

 この決定はベアリングから押し付けられたものではなく、森谷氏が自分で選択したものと思われるが、それは経営者としてセンチメンタルに過ぎると私は思う。賛同できない。

 いやしくもパイオニアは年商3654億円、従業員数約2万人(いずれも18年3月期)を擁する名の通った大企業である。資本構成が変わるからといって、これだけの企業のトップが無給という例は少ない。

 他の例としては、日本航空を再生させた稲盛和夫前会長のケースがあった。しかし、稲盛氏は京セラの創業者であり稲盛財団の理事長で、その資産力は想像にかたくない。しかも同氏は仏教臨済宗で在家得度までしている宗教家だ。通常の経営者では及びもつかない奉仕と救済の意思を有していた。

 稲盛氏が日本航空会長に就任時も、私は「無報酬なんてとんでもない禁じ手だ」と評していた。企業の経営には大きな責任が伴い、集中的な没入が要求される。それをボランティアでやれてしまうのは、資産家で宗教家だった稲盛氏のみにできることで、その行動指針を他のあまねく経営者の模範としてはならないと思ったのだ。

 また、日産のゴーン前会長が報酬の未記載で逮捕されているが、公表されていた年報酬約10億円とほぼ同額を、先払い扱いとしていたと報じられている。不動産の提供や個人の投資損の会社への付け替えを図ったなどとも報じられているが、それらはさておき、あれだけの事業再生を成し遂げた経営者に年俸20億円がふさわしかったのかどうか、しっかり公表して市場や従業員の批判を受ければよかったのだ。

 森谷氏が無給でパイオニアの経営に当たるというのは、それを自分はボランティアでやると宣言したわけだ。聞こえがいいかもしれないが、経営の責任への認識がプロフェッショナリズムと対極にあることを晒してしまっている。プロの対極とはアマチュアなので、森谷氏は自分が経営者として自信がないから「無給でやらせてください」ということになってしまったのだ。

 しかし、そんな経営者に率いられる従業員こそ、かわいそうだ。そもそも年俸がゼロとなる経営上の大きな瑕疵が森谷氏には見当たらない。6月に新社長として着任したのだから、ここに至るパイオニアの苦境に対して直接の経営責任を問われる立場にないのだ。

 企業経営には大きな責任も伴えば、チャレンジも迫られる。だからこそ、それに対して一般従業員よりも高い報酬が提供されるのだ。最高経営責任者が自らの報酬を作為的に操作決定したという点で、ゴーン氏と森谷氏は同罪だ。金額操作の方向が上に行ったか、下に行ったかの違いはあるが構造的には同じ出来事である。

 ベアリング傘下入りに際して、パイオニア側でそれを差配した森谷氏はどう身を処せばよかったのか。他の役員同様辞めればよかった、今からでも辞めればよい。ベアリング側は戸惑うだろうが、必ず次の世代のなかから頭角を現す幹部が出てくるはずだ。技術の蓄積があるパイオニアには、それをつくってきた優秀な社員の蓄積もあるはずだ。

 リストラなどに対する社員からの突き上げや反感を忖度したのだろう、あろうことか失敗もないのに自らの給与を返上するような根性のない経営者は、その席を降りたほうがいい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)

※ 本連載記事が『残念な経営者 誇れる経営者』(ぱる出版/山田修)として発売中です。

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山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
有限会社MBA経営 公式サイト
山田修の戦略ブログ

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