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殺人で死刑確定の風間博子、元ヤクザ総長を名誉毀損で訴え勝訴…風間は無実との証言も

文=深笛義也/ライター
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 女性死刑囚が、元ヤクザの親分に勝った。

 裁判の結果を一言で表すと、そうなるだろう。

 2016年12月に竹書房から刊行された高田燿山著『仁義の報復』のサブタイトルは「元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実」(「高」の正式表記:はしごだか)である。同書のプロフィールによれば高田氏は、高校生の頃から愚連隊として名をはせ、松本少年刑務所、府中刑務所、神戸刑務所への収監の経験を経て、1990年に稲川裕紘三代目会長から盃を受けて直参となり、会長秘書も務め上げて、稲川会高田一家総長となり、2014年に引退している。

 同書によって名誉毀損されたとして竹書房と高田氏を訴えたのは、1993年に起きた埼玉愛犬家殺人事件で、殺人と死体損壊遺棄で2009年に最高裁で死刑が確定している、風間博子である。

 11月16日に東京地裁で出されたのは、竹書房に対して、風間博子に50万円の支払いを命ずる判決だ。風間は作者をも訴えていたのだが、被告には高田氏の名はない。判決にはその理由が、平成30年9月14日の口頭弁論期日に双方が出廷しなかったからだと書かれている。確定死刑囚が自ら起こした民事訴訟で出廷することはないため、このようなことがしばしば起きる。今回の公判でも風間は出廷せず、文書で自らの主張を展開した。

 埼玉愛犬家殺人事件では、17年に獄死した、風間の元夫の関根元にも死刑判決が下されている。事件の犠牲者は4人。関根は4人の殺害を行い、風間はそのうち3人について共犯だったとして死刑判決は下された。

 犠牲者の最後の1人である女性は関根と男女関係にあり、関根は彼女から偽りの投資話で金を巻き上げていた。関根の供述はすべてにおいて紆余曲折しているが、女性殺害の動機も「浮気が風間に発覚しそうになったことと、借金を返す見通しがつかなかったことにある」から、「借りた金が返せないから殺そうと、風間から持ちかけられたからである」に変遷している。

 のちの供述はいかにも不自然であると、検察は考えたのだろう。その他の状況も検証した上で、その女性の殺害については風間は無関係だとして、起訴されていない。

 それが『仁義の報復』ではその女性に関して、関根風間で以下のような会話がされたと書かれている。

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「いや、俺も男だから女の一人や二人どうとでもなるが、俺はカネにならない女には手をつけない」
「あの女とヤッたのね!   許さないから!」
「でも、犬を売りつけて、おまえにも五百万円やったじゃないか」
「それとこれとは別よ。私が手伝ってあげるから、サッサとあの気持ちの悪い女を殺ってしまいましょう」
「わかった。来週、二十六日に家に呼び出そう」
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 女性殺害についても、風間が共犯だったと書かれているのだ。 11月16日の東京地裁判決では、こうした記述に関して以下のように風間への名誉毀損であると認めた。

「●●の殺害への関与に関する事実の摘示は、被害者の人数の点でも、被害者の属性(関根との交際関係にある女性)の点でも、原告の社会的評価をさらに低下させる部分があるというほかない」(●●は被害者の名前、筆者により伏せ字)

 どうやって密室で交わされた関根と風間の会話を知り得たのかと、『仁義の報復』を読んで疑問に思った読者も多いであろう。ノンフィクションでありながら、自分でつくり上げた会話を高田氏は記述していたのだ。これを東京地裁は名誉毀損と認めた。

「博子さんは無罪だと思います」

 風間の異性関係について、『仁義の報復』には以下の記述がある。

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風間は、夫に従うふりをしながらも、その実暴力を振るう夫を軽蔑し、浮気を重ねていた。手下の山崎やブリーダー、オーナー、さらにはホストとも頻繁にラブホテルに行っていたのである。
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 関根と風間の逮捕後に、2人に関する報道が相次いだ。週刊誌では風間の高校時代の恋愛事件まで伝えられたが、ここに記述されたような奔放な異性関係はどこにも出ていない。風間には特定の愛人がいた。浦和地裁(現さいたま地裁)で初公判が開かれる直前、「週刊朝日」(朝日新聞/1995年7月21号)で“「夫」も愕然とした共犯妻の秘密”とする記事の中にそれは書かれている。相手は先物取引の会社に勤める営業幹部で、風間の一つ年上と書かれている。関根の弁護人を務めていた、村木一郎弁護士のコメントがそこにはある。

関根被告はそうとうショックで悲しい顔をしてた。捜査側にとっても、風間被告の不倫は、関根被告に揺さぶりをかけて口を開かせる『決め球』だったようです。いつ、どこで二人が密会したかなど、事細かに、繰り返し聞かされたそうです」

 この“決め球”は効いた。逮捕当初、「被害者は4人とも自分が毒を飲ませて殺害した」と言っていた関根が、風間に唆されて殺害を決意したと言うようになったのだ。捜査当局が、なぜそれを知っていたかといえば、事件発生当初から風間の関与を疑い、尾行による行動確認をしていたからだ。いつどこでホテルに入ったということまで、証拠として法廷に出されている。その他にも異性関係があるならば、それも表面化していなければおかしいのだ。

 こうした記述についても、11月16日に東京地裁判決では、風間への名誉毀損であると以下のように認めた。

「当該摘示は、一般読者に対し、原告が、情交相手を選ばない乱脈な性的嗜好を有するとの印象を与えるものと認められる」

「本件刑事事件当時、山崎や犬のブリーダー、オーナー、ホストらの多数の異性と情交関係にあったとの事実を摘示するものであり、いずれも原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である」

 ちなみに“決め球”となった風間の愛人の存在は、事件を裁く法廷でも争点となった。事件の前の1992年の暮れ、関根と風間が共同経営する「アフリカケンネル」に税務調査が入った。離婚をして不動産名義を風間に移し別居したほうがいいという弁護士の助言で、2人は籍を抜いている。愛人の存在は風間の心が関根から離れていた証であると弁護側は主張した。だが、離婚は偽装であり2人は「運命共同体」「車の両輪」だったとする検察の主張が採り入れられて、判決は風間を3人の殺人の共犯者としたのだ。

 以下のような記述も、『仁義の報復』には見られる。

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そしてもう一つは、かつて山崎が風間と男女の関係にあったことだ。
山崎は二審でそれまでの 供述を翻し、「風間博子さんは、無罪だと思います」とはっきりと述べ、「人も殺してないのに、なんで死刑判決が出るの」とまで憤りを露わにしている。
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 山崎は事件の共犯者で、死体損壊遺棄のみを手伝ったとされ、懲役3年の刑に服した人物である。山崎が風間と異性関係にあったというのは虚偽であり、この記述も名誉毀損に当たるとされた。

 だがここに書かれている、山崎が取り調べ時の供述を、控訴審で覆したということは事実である。公判記録に記されている山崎の言葉は、「博子さんは無罪だと思います」「人も殺してないのに、なんで死刑判決が出んの」であり、ほぼ同一だ。

「真実」と銘打った著作の虚偽

 関根元は2017年3月27日、多臓器不全によって、東京拘置所内で75歳の生涯を閉じた。彼と面会を続けていた村木弁護士は、『仁義の報復』に対する反応を教えてくれた。

「関根さんはまだ本を読める状態でしたので、差し入れました。東京拘置所の病舎で何もすることのない関根さんはすぐに読み終えて、内容のずさんさに笑っていたのが印象的でした」

 殺人を行ったことを自ら認めている関根が、事件を書いた本を読んで笑っていたとは、ずいぶんなふてぶてしさだが、「ずさんだ」というのには同感する。

 こんな記述も『仁義の報復』にはあるのだ。

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関根は庭の隅の一郭に手際よく穴を掘り、風間に手伝わせてビニール袋にくるんだ美千代の遺体を放り込んで土をかけた。
そのすぐそばには、 遠藤の運転手をしていた和久井が眠っていた。
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 犠牲者の遺体は、家の庭に埋められたというのだ。もしそうだったとしたら、捜査当局が掘り出して、事件の解明はもっと容易だったはずだ。実際には遺体は、片品の山崎宅に運ばれ、肉はサイコロステーキほどに刻まれ川に流され、骨は粉になるまで高温で燃やされた。関根が「ボディを透明にする」と語っていた通り、最も雄弁な証拠であるはずの遺体がほとんど消滅させられたのが、この事件の本質だ。そこに虚偽が書かれているのだから、「ずさん」というほかない。

 この記述については、今回の東京地裁判決では問われていない。「真実」と銘打った著作であっても、虚偽を書くことそのものは違法ではないからだ。

 物的証拠がほとんど残されていなかったために、捜査当局が頼ったのが、任意の事情聴取に応じた山崎であった。彼の供述によって関根と風間は、殺人と死体損壊遺棄で起訴されたのだ。だが山崎は公判では、風間は無実だと何度も証言している。その背景については、拙著『罠~埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』(サイゾー)に詳述した。

見当たらない、『仁義の報復』回収に関するアナウンス

 今回の東京地裁判決は、以下のように結ばれている。

「本件書籍は、平成30年5月までに3654部が販売されたにとどまり、被告は、本件訴訟継続中に、本件書籍の回収を指示していることを考慮すると、原告が被った名誉毀損、プライバシー侵害による精神的苦痛に対する慰謝料としては、50万円が相当である」

 すでに『仁義の報復』は回収されているのである。だが竹書房のホームページを見ても、それを知らせる告知はない。筆者は、竹書房に以下の質問を送った。

1.判決は、『仁義の報復』に風間の社会的評価を低下させる虚偽の記述があったことを認め、御社に50万円の支払いを命じています。御社はどのように受け止めていらっしゃいますか。

2.判決によれば、御社は『仁義の報復』を回収したとのことですが、それはなぜですか。

3.一般に商品を回収するとは、購入した読者からも回収し返金することを意味し、書籍も同様です。『仁義の報復』について、そのような対応をなされているのでしょうか。なされているとしたら、電子書籍での販売については、いかようにして回収されていますか。御社ホームページを見る限り、『仁義の報復』回収に関するアナウンスは見当たりませんが、購入した読者は、どのようにしてこの処置を知りうるのでしょうか。

4.御社は公判で、「原告は本件記事事件により死刑判決を受けており、本件書籍の記載は原告の社会的評価を低下させるものではない」と主張しています。風間博子が逮捕から一貫して殺害への関与を否定し、現在も再審請求を行っていることはご存じでしょうか。

5.1990年以降だけでも、殺人事件とされた、足利事件、東住吉事件、東電OL殺人事件が再審によって無罪判決が下されています。このようなことを鑑みる時、死刑囚は虚偽を書かれても名誉を毀損されないとも受け取りうる、上記の公判での御社の主張を、社会から求められる出版社の使命と照らして、どのようにお考えですか。

 竹書房からの回答は、以下のものであった。

「ご指摘の訴訟については、判決の内容を精査し適正に対応してまいります」

 今後、どのような対応をするのか、しっかりと見届けたい。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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