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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

急激に経済発展する国々が、こぞってクラシック・オーケストラを設立する合理的理由

文=篠崎靖男/指揮者

 さて、香港、シンガポール、マレーシアのようなアジアの主要オーケストラと、日本のオーケストラの成り立ちには、大きな違いがあります。もちろん、日本のオーケストラのすべてに当てはまるわけではないのですが、ほとんどは第二次世界大戦後に日本の急激な復興とともに、オーケストラを演奏したいと願う音楽家たちによってつくり上げられました。

 一方、ほかのアジアの国々は、植民地だったところも多く、しばらくは混乱の中で停滞していたわけで、音楽どころではありませんでした。それが、東西冷戦も終結し、中国も開放政策に転じ、世界が大きく変動するなかで、アジアが急激に発展し、お金を持つ人々も増え、「我が国にも欧米に劣らない文化を」と、オーケストラをつくることになっていきました。つまり、オーケストラをつくる計画が先にあり、大急ぎで音楽家を世界中から集めるようになったという点が、大きく異なるのです。そこには、政治やビジネスの面で重要な欧米の国々は、経済力だけでなく、文化水準の高さも、一人前の相手として付き合う上での大事な評価基準としているからです。

芸術分野に注力する理由

 ここで日本の話になります。僕は今年3月まで静岡交響楽団の常任指揮者を務めていました。静岡交響楽団は、地元もバックアップを受け、現在も成長を遂げているオーケストラです。さて、最近になって、どうして静岡がオーケストラへのバックアップに熱心なのか、商工会議所の幹部に話を聞いたところ、このような回答でした。

「静岡は第二次産業、つまり工場が多い県です。しかし、現在、工場は雇用単価が低いアジアの国々に移転してしまい、人口も経済も流出しているのが静岡の大きな問題です。そこで現在、経済界としては、海外を含めたハイテク企業や知的産業を誘致したいと考えています。ところが、そのような企業の社員は収入や生活環境だけでは、こちらに来てくれません。彼らは文化水準も居住の判断基準にするので、静岡の芸術文化を底上げする必要があります。そんなわけで、我々静岡県としても、地元のオーケストラにはがんばってほしいと思っています」

 日本も豊かな国になりました。これからは芸術が、単なる人生を豊かにするだけのものではなく、経済的にもますます重要になっていくのではないかと思います。
(文=篠崎靖男/指揮者)

※本記事は、アジアのオーケストラを研究している立命館大学経営学部教授・近藤宏一氏の協力を頂きました。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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