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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

都心のタワーマンションやオフィスビルの価値がなくなる日…働き方改革→通勤不要の衝撃

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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 また、別の知り合いの経営する会社は、ソフトウェアの会社で社員は30名ほどのベンチャー企業だが、なんと社屋がないのだそうだ。本社としては一応社長の自宅が登記されているのだが、社員は日本全国の都道府県に散らばり、情報端末だけを使って仕事をしているという。社長も実は社員全員とは面談したことがないというから驚きである。業種柄ということはあるのだろうが、実は確固たる組織やオフィスを持たずとも、情報端末だけで世の中はスムーズに仕事ができるようになってきているのだ。

 さらにその会社がユニークなのは、ちゃんと会社で飲み会も行うのだそうだ。全国に散らばる社員がどうやってと思うのだが、飲み会もすべてネット上でやるのだという。各人が好きな場所、たとえば自宅のダイニングで、好きなお酒とつまみを前にして皆で「カンパーイ!」とやるのだ。もうここまでくると自分もついていけるか不安になるが、結構盛り上がるのだとか。時代はどんどん進歩しているのである。

しなやかに「住む街」を選ぶ時代に

 さて、こうした世界がもっと進化していくと不動産、とりわけ人々の住宅選びにはどんな変化が訪れるのだろうか。仮説として「通勤」がなくなるということだ。

 多くの会社が本社機能のみを残して、ほとんどの社員が自宅近くのコワーキング施設に徒歩や自転車で行って好きな時間に仕事をする。月に一回程度都心の本社に出てきて打合せや顔合わせをする。副業も自由なので、ネット上などで会社とはまったく異なる人と付き合い、別の収入を得る。こんなワーキングスタイルになれば、住宅選びはどうなるだろうか。

「住みたい街ランキング」がまた大きく変動するのではないか。最近は夫婦共働きを前提に会社への通勤利便性で住宅を選ぶ傾向が顕著だが、通勤そのものがなくなれば、家選びにおける会社までの「交通利便性」という要素が、まったく意味をなさなくなるからだ。一日の大半を自宅や自宅近くのコワーキング施設で過ごす。移動は徒歩や自転車でする。夫婦とも同じ街で働き、会社は異なれど同じコワーキング施設で働くことができるようになる。通勤時間はほとんどなくなり、夫婦、家族が街で過ごす時間が増えるようになるのだ。

 このようになった瞬間、住宅選びは「住む」だけでなく、「働く」「遊ぶ」「憩う」など、すべての要素が詰まった街を選ぶ動きに替わる可能性があるのではないだろうか。そうなると人々にとっての住宅は求められる機能が大きく変わることになる。そして、あらゆる角度からの住宅選び、街選びを行う必要が生じてくる。実はこういった時代が、最近の通信技術の進歩やAIなどの発達で意外に早くやってきそうなのである。そして、これは今まで馬鹿みたいにお高い住宅を一生の収入の2割から3割ものお金をつぎ込んで所有しようとしてきた人々の行動様式、ライフスタイルを大きく変えることになりそうである。

 通勤がなくなってしまえば、鉄道経営には大きな打撃となろう。都心部に大量の超大型オフィスを提供し続けているデベロッパー各社は、阿鼻叫喚の世界になるかもしれない。都心タワーマンションに誰も見向きもせずに、地方居住を選択する人も出てきそうだ。

 海の近い家に住み、朝はサーフィンしてから自宅近くのコワーキングで働き、夕方には海辺をジョギングするなんていう「サラリーマン」が普通になるかもしれないのだ。

 これからの働き世代はもっと自由に、しなやかに「街」を選んでいく、そんな時代を迎えようとしているのだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

●牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みにこたえる。

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