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水野誠「マーケティングの進化学」

市場の多様性を生み出すのは何か…世界の文化が融合するか分裂するかをシミュレーション

文=水野誠/明治大学商学部教授

「文化の流布」モデルからわかること

 アクセルロッドが発表した「文化の流布」モデルは、前回紹介したシェリングの分居モデルと並んで、エージェントベース・モデルの古典と位置づけることができます。このモデルでは、エージェントたちは分居モデルのときと同様、格子状の世界に住んでいます。

 分居モデルと違うのは、すべてのセルにエージェントがぎっしり埋めこまれていて、身動きが取れない(移動しようにもできない)ことです。各エージェントには上下左右に4人の隣人がおり、彼らとの間だけでコミュニケーションを行います。アクセルロッドがエージェントとして考えていたのは、分居モデルのように個人ではなく、国または地域になります(とはいえ、個人を対象にしたモデルにも転用できます)。

 それぞれのエージェントは多次元の「文化」を持っています。国であれば、文化は言語、宗教、政治体制などから構成されます。消費者であれば、さまざまな次元での価値観やライフスタイル、あるいは各種ブランドへの選好を考えることができます。いずれの場合も、他のエージェントの影響で文化の構成要素は変化し得るとします。具体的にいうと、まず全エージェントから1人をランダムに選びます。彼または彼女は4人の隣人から、ランダムに1人選びます。次いで、その隣人の文化から、自分とは違う要素を1つ選んで自分に取り入れます(自分にすでにあった要素に上書きされます)。

 こうしたプロセスの例を示したのが図1です。ここではエージェントの文化は5次元で、個々の要素の特徴は0~9の数値で表されています。2人のエージェントの文化は3つの次元で一致しているので、5分の3の確率で文化の「ある要素」が移転します。この図では3番目の要素が選ばれていますが、エージェント間で不一致のあった2番目の要素が移転していた可能性もあります(どちらにするかはランダムに決まります)。これが、この格子状の世界のあらゆる場所で逐次進行するわけです。そして、どのエージェントの隣りにも、自分と最低1つの要素で一致するエージェントがいなくなったとき、各自の文化はもう変化しなくなってシミュレーションは収束します。

市場の多様性を生み出すのは何か…世界の文化が融合するか分裂するかをシミュレーションの画像2

水野誠/明治大学商学部教授

水野誠/明治大学商学部教授

明治大学商学部教授
、博士(経済学)東京大学。1980年筑波大学第一学群社会学類卒業。1985年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了。2000年東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻博士課程単位取得満期退学。株式会社博報堂(マーケティング局・研究開発局、1980~2003年)における勤務、筑波大学社会工学系専任講師、同大学大学院システム情報工学研究科専任講師、准教授(2003~2008年)、明治大学商学部准教授(2008~2014年)を経て現職

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