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山梨県、“移住地人気ランキング上位常連”の地位を危機に晒す山梨県議会の行動

文=小川裕夫/フリーランスライター
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山梨県、人気の理由

 山梨県が人気になっている理由は、どこにあるのだろうか。ふるさと回帰支援センターに出向しているある県の職員は、こう分析する。

「なによりも東京から近いことです。中央線の特急はたくさん出ていますし、甲府駅から新宿駅・東京駅まで約2時間です。東京寄りの大月駅なら、新宿駅を23時45分に出発する電車もあるぐらいです。都内と変わらない近さが、人気の理由です」

 山梨県は人口が約85万人と少なく、ゆえに住居費が安く抑えられる。住居費が安くなると在宅ワーカーの移住が促進されることもあり、IT企業で働く労働者や働き方改革で在宅ワークを増やしている企業の社員などから人気が出ているという。

 そうした東京に本拠地を置く企業での働き方の変化も大きいが、山梨県内の産業の変化も見逃せない。同職員は言う。

「どの地方都市にもいえることですが、これまでは大学進学で東京や大阪に出てしまい、そのまま就職。地元に若者が戻ってこないというのが一般的でした。山梨県は東京に隣接しているので、特に東京への進学者が多く、県内は産業が乏しいために雇用も弱かった。だから、Uターンする若者が少なかったのです。しかし、最近では山梨県のミネラルウォーターが注目を浴びるようになり、関連企業が工場や研究所を構えるようになりました。ミネラルウォーター関連企業による雇用が増えているのです」

 国内のミネラルウォーター市場は、約2950億円。最近では、スーパーやコンビニなどで販売されるミネラルウォーターだけではなく、個々の家庭に届けられる宅配水の市場も拡大している。宅配水の国内市場規模は、約1280億円にも及ぶ。約4000億円超のミネラルウォーター・宅配水市場で、山梨県は50パーセント以上のシェアを占める。山梨県は、まさにミネラルウォーター大国といえる存在なのだ。

「山梨県の水が注目されたことで、山梨県が地道に取り組んできたワイン製造やウイスキー製造も脚光を浴びるようになりました。ワイン製造が注目されたことで、山梨県産のブドウや桃といった果物もブランド化し、こちらも好調です。以前の山梨県は、富士山の登山や富士五湖の保養地を軸とする観光業だけでしたが、水が注目されたことによって産業も多様化してきました。こうした産業が雇用を生み出したことで、山梨県へのUターン・Iターンが増えていると思います」(同)

 山梨県内でも、特に移住者・定住者から高い人気を誇るのが北杜市だ。北杜市は南アルプスの麓にあり、サントリーをはじめミネラルウォーター生産・販売企業が集まる。まさに、ミネラルウォーターの聖地ともいうべき土地でもある。

ミネラルウォーター税

 しかし、そんな山梨県にも思わぬ危機が訪れようとしている。それが、山梨県議会が制定を検討する「ミネラルウォーター税」だ。

 山梨県のミネラルウォーター生産者の多くは、地下水脈から水をくみ上げ、それをペットボトルなどに充填している。製造事業者は地下水を掘削する工事や工場建設、汲み上げのランニングコストなどは負担しているものの、地下水の原料費はタダ。つまり、設備さえ整えてしまえば、水を汲み上げれば汲み上げるほど儲けが出ることになる。

 事業者が利益を優先して大量に採水すれば、環境に負荷を与えることは自明だ。一企業の営利活動が、県民の生命をつなぐ水を脅かしていいのか。そんな理由から、山梨県議会は事業者にミネラルウォーター税を課すことを検討しているのだ。

 実は、山梨県は2005年頃にもミネラルウォーター税を検討したことがある。当時は、山梨県庁内で検討されたもので、これは森林保全を主眼とする税金だった。このとき検討されたミネラルウォーター税は森林環境税と名を変えて制定された。森林環境税は、県民一人あたり年間500円、法人には資本金を算出基準として最低でも年間2万1000円を課税する。

「このほど検討されているミネラルウォーター税は、それとは別の税です。制度設計の議論は、まだ途中の段階で詳細は決まっていません。森林環境税は採水業者ではない一般の県民にも負担を強いる税金ですが、今度のミネラルウォーター税は事業者に負担をお願いするような制度設計になると思われます」(山梨県職員)

 ふるさと回帰支援センターが発表した2017年の人気ランキングで、山梨県は1位の座を長野県に明け渡した。山梨県のふるさと回帰を先導してきたミネラルウォーター事業者に対して課税強化の動きが強まれば、ミネラルウォーター関連の事業者はこぞって他県に転出することが予測される。ミネラルウォーター関連の事業者が山梨県から撤退すれば、山梨県経済の低迷は免れない。雇用も鈍るだろう。

 ふるさと回帰で人気ナンバーワンに輝いた山梨県だが、先行きに暗雲が立ち込めている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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