ユニ・チャーム、中国・紙おむつ戦争で後発の花王「メリーズ」に惨敗した“中国人らしい”理由

ユニ・チャーム「マミー・ポコ」

 ユニ・チャームが国内で今もっとも注力しているのが、高齢者を中心とした紙おむつ「ライフリー」だ。国内ではトップシェアを握る。高齢化が世界に先駈けて進む日本国内で培った、紙おむつのノウハウをアジアへ輸出する。

 創業者の高原慶一朗氏が2018年10月3日、老衰のため東京都内で死去した。87歳だった。

 現社長の高原豪久氏は01年、慶一朗氏から39歳の若さで経営のバトンを引き継いだ。先代社長の慶一朗氏が盤石にした生理用品、子ども用紙おむつなど、国内の事業を継承した。創業者をいかに乗り越えるか。2代目社長が必ず直面する課題だ。

 豪久氏は日本経済新聞電子版に「経営者ブログ」を連載した。最終回の18年12月27日付は「百年企業へ第三の創業」だった。

 そこで、10年に発売され多くの経営者に読まれているジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(日経BP社)を例に、「我が社も、この『企業衰退の五段階』に陥り、どこかで致命的な失敗をしていたら今日のユニ・チャームは無かったと思います」と書いている。

「企業衰退の五段階」とは、(1)成功から生まれる傲慢、(2)規律なき拡大路線、(3)リスクと問題の否認、(4)一発逆転政策の追求、(5)競合への屈服と凡庸な企業への転落か消滅――というプロセスを辿る。

 ユニ・チャームは、生理用ナプキンの成功で傲慢になった。売り上げ規模の拡大を目指しベビー用紙おむつへ参入したが、乱売合戦が起き、ほころびが生じた。起死回生を図るためにパンツ型紙おむつの「ムーニーマン」や生理用ナプキンのラインアップを刷新した「レディーメード作戦」で一発逆転を狙った。

「『一発逆転策に頼る→失敗する』といった悪循環に陥ると社員の士気もどんどん低下していきます。当時の社内は、多くの人が受命体質に陥り、機能不全を起こしていました。そのような中、抜本的な改革案を断行することによって、ベンチャー企業からグローバル企業へ急ハンドルを切り、轍(てつ)を脱しました」

アジアの紙おむつメーカーを次々と買収

 豪久氏が打ち出したユニ・チャームの大転換は、2度目のアジア市場の開拓だった。

 18年9月25日、タイの紙おむつメーカー、DSGTを買収した。買収額は5億3000万ドル(約600億円)。海外のM&A(合併・買収)案件としては過去最大規模だった。

 DSGTはタイやマレーシア、インドネシア、シンガポールなどで「BabyLove」や「Fitti」などのベビー用紙おむつを展開。17年12月期の売上高は日本円換算で約280億円。

 これに先立つ11年、ベトナムの乳児用紙おむつと生理用品大手、ダイアナ社を買収した。買収額は100億円前後。ダイアナ社の売上高は50億円。ベトナムでは紙おむつで市場シェア30%、生理用品で40%を持ち、米キンバリー・クラークに次ぐ。

 これまでは、タイやインドネシアなどで自社工場を造り独自の販売網を築き、紙おむつや生理用品でシェア第1位となったが、ベトナム市場の開拓は遅れていた。

 13年にはミャンマーのミャンマー・ケア・プロダクツ(マイケア)を買収した。買収額は数十億円程度。マイケアはミャンマーでトップシェアの生理用品を持ち、紙おむつでもユニ・チャームに次ぐ第2位である。

 ユニ・チャームは自前主義を捨て、現地の紙おむつメーカーを相次ぎ買収してきた。中国と並ぶ有望市場である東南アジアで、圧倒的なシェアを握るのが狙いだ。過去に、世界最大の紙おむつ市場である中国でシェアを落とした苦い経験があるからだ。

中国の紙おむつ市場で花王の「メリーズ」に完敗

 中国は世界最大のおむつ市場である。1997年に参入した米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の「パンパース」が席巻。2009年(暦年、以下同じ)には低価格商品を武器に、43%と圧倒的なシェアを誇っていた。しかし、市場規模が膨らんでいくなかでP&Gは逆にシェアを落とした。

 P&Gのシェアを喰ったのは、日本製の紙おむつだった。00年にユニ・チャーム、09年には花王が中国に進出した。12年にはP&Gはシェアを31.8%にまで落とし、ユニ・チャームがシェア10.9%で第2位に躍進した。

 日本製紙おむつのブームに火をつけたのは、中国では最後発の花王の「メリーズ」だった。13年ごろから中国の転売業者が、日本のドラッグストアでメリーズを“爆買い”し、中国国内で転売した。ドラッグストアの店頭からメリーズが姿を消し大騒ぎとなった。一時は、中国で流通する正規品の倍の転売品が出回ったという。

 日本製の紙おむつは紙の品質が良く、「漏れにくく蒸れない」と中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で評判となった。メリーズのシェアは12年の3.8%から17年には11.1%へと5年間で7.3ポイント増加し第3位に浮上。メリーズの大躍進を受けて、パンパースのシェアは31.8%から22.1%へと9.7ポイント下がった。

 ユニ・チャームもシェアを下げた。12年には10.9%で第2位だったが、17年には8.3%へと2.6ポイント減少。花王に抜かれて4位に後退した。

 同じ日本メーカーの製品でも、中国人のお気に入りは日本製。「メイド・イン・ジャパン」が売れた。

 ユニ・チャームは日本製紙おむつのブームに乗れなかった。ユニ・チャームの海外展開は地産地消が原則。中国では上海など5工場を構え、中価格帯の「マミーポコ」を生産してきた。中国人の消費者は、現地製には魅力を感じないのだ。メイド・イン・ジャパン信仰が強く、日本製に飛びついた。現地生産が仇となり、ユニ・チャームはシェアを落としたかっこうだ。ユニ・チャームは「競合への屈服」を味わった。

 そこで15年に戦略を転換した。現地生産の中価格帯のマミーポコから、高価格帯の日本製ムーニーの輸入による販促に重点を移した。19年春、福岡県に国内で26年ぶりの新工場を稼働させる。中国で人気の高い高級紙おむつ、ムーニーを生産。地理上の利点を生かし、ここを中国向けの生産拠点とする。

大人用紙おむつに注力

 18年1~9月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は、前年同期比7.0%増の4981億円、売上総利益から販管費を除いたコア営業利益は同13.8%増の758億円、最終利益は同7.9%増の470億円だった。純利益は同期間では過去最高。利益率の高い生理用品がアジア各国で好調だったという。

 業績を牽引したのはアジア事業だ。コア営業利益の増加額92億円のうち91億円をアジアが占めた。一方、中国では、子ども向け紙おむつの競争が一段と激しくなっている。日本製の商品を輸出する中国越境EC(電子商取引)向けの全体の販売額は7~9月期で1割弱の増加にとどまった。

 国内では、少子化により子ども用紙おむつの伸びが止まった。対して高齢化が進み、大人用紙おむつの需要が高まった。ユニ・チャームによると、25年に日本の65歳以上の人口は15年と比べて8%増える。一方、0~4歳児人口は2割減、生理用品を使う女性の人口も15%減の見通しだ。

 ユニ・チャームは13年3月期(14年から決算期を3月から12月に変更。3月期決算は14年3月が最後。14年12月期は変則決算となった)に、大人用紙おむつの売上高が子ども用のそれを上回った。市場調査会社、ユーロモニター・インターナショナルの調べによると、17年(暦年)のユニ・チャームの大人用紙おむつの国内市場シェアは51%と第2位の大王製紙(15%)に大きく水を空けた。

 アジアはこれから高齢化が進む。ユニ・チャームのおむつ戦略は、日本国内で培った大人用紙おむつのノウハウをアジアに輸出して、大人用紙おむつ市場を開拓すること。そこでトップシェアを狙う。

 株式市場は、大人用紙おむつでアジア市場へ2度目の挑戦をすることを評価した。18年の大納会(12月28日)の終値を基準とした時価総額は2兆2095億円。17年の大納会と比べて3908億円増え2兆円の大台に乗せた。トイレタリー業界のライバル、花王(時価総額3兆9848億円)、資生堂(同2兆7568億円)を追い上げる体制が整った。

 19年はアジア市場での新たな挑戦が始まる。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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