高杉康成「コンセプト・シナジーな経営戦略」

インダストリー4.0なんて“机上の空論”だ…日本の工場は、とっくの昔から導入

費用対効果という最も重要な原理原則

 では、4.0では、どういった業界の予知保全でIoTを想定しているのでしょうか。例えば、スマートフォンの製造工程を考えてみましょう。この製造工程も高度に自動化が進み、目であり耳である用途でセンサーはあちこちについています。ところが予知保全のセンサーとなると、付いているケースは稀です。その理由は「費用対効果」にあります。前述の半導体製造工程、製鉄所や化学プラントでは、予知保全のセンサーを山ほどつけても、トラブルが発生した際の被害額のほうがはるかに大きく、費用対効果が十分成り立つのです。

 一方、スマートフォン、タブレット、パソコンなどのデジタル家電の製造工程では、予知保全のセンサーをつけても費用対効果が成り立たないケースが圧倒的に多いのです。こういった業界では、1個数千円から高くても数万円で完成品ができるのに対して、取付費用を含めると1個数万円かそれ以上もするセンサーを山ほどつけるのは、費用対効果の観点からまったく合理的ではないのです。

 製造業の代表格である自動車工場においても、故障すると被害が大きい超大型のプレス機械、成形機などには予知保全のセンサーはついているケースが多いです。また、自動車部品を加工する下請けメーカーの工作機械などにも、温度センサーなど予知保全に近い使い方をするセンサーがたくさんついています。

 このようにモノづくりの工場では、極めて合理的な判断の下、必要に応じて設備投資を行います。そして、費用対効果が大きいと考えられる工程には、予知保全の用途にセンサーは随分昔からついているのです。必要に応じてインターネットにもつながっています。少なくとも、日本国内においては、それは当たり前の話なのです。

 では、一体4.0では、どの業界のどういった用途でIoTを想定しているのでしょうか。4.0の言う「あらゆるものがインターネットにつながるIoTの技術を使い」という考え方は、何十年にわたり脈々と続いてきた、モノづくりの原理原則を覆すような画期的な方法が登場するということなのでしょうか。それが本当に実現するならまさに「革命」といえるでしょう。

 しかしながら、世界中の最先端のIoT、センサー技術を見る限り、それは「空想」の可能性が非常に高いといえるでしょう。「ブルドーザーでのIoTの成功事例」といった興味深い話に踊らされて、工場における費用対効果という最も重要な原理原則を見落としている。まさに「木を見て森を見ず」の状態となっているのです。この4.0には、こういった「空想」の話が、ほかにもたくさんあります。次回は、4.0における物流の「空想」について見ていきたいと思います。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

経営学修士、中小企業診断士、岡山県立大学地域創造戦略センター客員教授
神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程中退(経営学修士、MBA)。日本屈指の高収益企業、キーエンスの新商品・新規事業企画担当を歴任。退職後、新規事業や新製品開発、ビジネスの付加価値向上などの分野において、大企業から、中小企業まで幅広い業種・企業の指導に携わる。一般消費者向けの小売店、ネット販売企業などにおいても、ビジネスモデルの転換、収益力向上、新製品開発などで数多くの実績がある。
最近では、次世代自動車(CASE)、次世代通信、ロボット、AI、IoT、VR・AR、農業クラウドサービスなど、さまざまな最先端・成長業界における新規参入の支援を、上場企業をはじめ全国の企業に行っている。こういった企業への指導実績から、テクノロジーについても非常に詳しく、最先端分野の知見を有している。専門分野は、ブルーオーシャン戦略、事業戦略、技術経営(MOT)、Webマーケティング。
コンセプトエナジー株式会社

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