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江川紹子の「事件ウオッチ」第120回

【沖縄・辺野古移設賛否】県民投票不参加問題から考える、沖縄と民主主義

文=江川紹子/ジャーナリスト
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多様な民意をいかに反映するか

 一方、不参加を表明したうるま市長は、県民投票は4択で行うように改めて主張。沖縄県内11市長でつくる県市長会の会長として声明を発した。しかし、これは他の市長らに諮って行われたものではなく、独断での声明発表に批判も出た。また、すでに県議会で否決されたものを蒸し返すことにも疑問の声が挙がった。

 そんななか、全県での投票を求める市民団体が、「どちらでもない」を加えた3択案を提案。当初は渋っていた与党も後にそれを容認し、公明党、維新の会も賛成した。不参加を表明していた市の市長らも、この動きを歓迎し、参加に前向きな姿勢を見せた。

 今回の出来事が示している教訓は、政治的な意見が対立し、それが人々の分断を招きかねない状況のなかでは、多様な民意を反映する努力がいかに大切か、だろう。

(1)議論の過程でできるだけ多様な民意が反映するよう丁寧に行うが、
(2)どうしても合意に達しない場合は、多数決によって決定し、
(3)その結果にはみんなが従って、コトを前に進める。
(4)ただし、その結果は、次の選挙で有権者の審判を受ける。

 これが、民主主義国家における政治のルールと言える。

 最近の国政では、(1)の部分が軽んじられ、政府主導の強引な国会運営が批判されている。昨年の臨時国会でも、在留資格に関する詳細な規定を省令に委ねるなど、「生煮え」と批判された出入国管理法改正案が、衆議院では17時間15分、参議院でも20時間45分の審議で、いずれも野党の反対を押し切って強行採決された。

 それでも、採決が行われ、法案が可決すれば、それは有効となる。野党は、その後の国会や次の選挙で、できた法律や与党の国会運営を問題にするしかない。一方、与党は自分たちの正当性を強調して、支持を訴えるだろう。

 もちろん、国民には言論の自由があるから、いずれに対しても自らの意見を表明できる。

 では、今回の県民投票はどうだったのだろう。沖縄県議会事務局によると、米軍基地関係特別委員会で5回10時間57分、本会議で2回1時間15分の審議が行われた。議事録を読むと、委員会では最終的に質疑がなくなるまで活発な討論が行われており、時間的に不十分だったり、強引な議会運営が行われたり、ということはないと思われる。

 ただ、この議論の時点で、石垣市議会が反対の決議を挙げるなど、すでに6市で県民投票実施が危ぶまれる状況にあった。特別委員会では、直接請求の趣旨が「賛否」を問う県民投票の実現であることを強調する多数派に対し、4択案を出した野党議員からは、こんな発言も出ていた。

「一緒になって与野党で一つの案にできればつくっていきたいという、それが私どもの考えです」

「『やむを得ない』は取って(=外して)もいいので、『賛成』『反対』『どちらとも言えない』の3つは必要だろうと思っています」

 結果論ではあるが、この3択で落ち着きそうな今になって振り返れば、委員会の段階で、直接請求を行った市民団体も交え、与野党が合意を目指して、もう少し丁寧な議論をする、という道もあったのではないか。最大の目的は、民意の確認であり、その手法に関しては、できる限り多様な意見を汲み取った丁寧な議論はやはり必要だったと思う。

 人々の間に分断を生みやすい案件こそ、多数を占める与党会派は、多様な意見を反映させるために努力すべきだ。沖縄県政での与党各派だけでなく、国政では圧倒的な多数派を形成している自民党にも、この沖縄での教訓を、国会運営にちゃんと生かしてもらいたい。

 ただ、そういう教訓はあるにせよ、それでも議会の議決を経て決まったことがらは、みなが尊重しなければならないのは当然だ。この結果を批判する者は、次の選挙で世論に訴えたり、次の議会で新たに問題提起をしたりする。一方、与党は自分たちの正当性を強調して、支持を訴える。そして有権者の審判を受ける。こうなるべきだ。

 ところが、沖縄、宜野湾、うるま、石垣、宮古島の各市が参加を拒否。手続きに沿って決まったことが、自分たちの意見と違うからと、自治体が投票事務を拒否し、住民の参政権を奪うなど、もはや民主政治の否定と言えよう。

 市議会議員も市長も、住民に選ばれた代表だ。しかし、そうした選挙では基地建設が唯一の争点になるわけではないし、住民一人ひとりの固有の権利である参政権を奪う権限まで委ねられているはずもない。

 将来、憲法改正に関する国民投票が行われる事態になった時、どこかの首長が「このような国民投票には賛同できない」と投票事務を拒否し、住民が意思表示できなくなったらどうなるだろう。

 1996年の県民投票の時は、自民党や保守系首長によってボイコット運動が行われた。そのためか、投票率は直近の県知事選挙よりやや少なかった。それでも当時の政権与党は、住民の参政権を人質にするような卑劣なふるまいはなかった。

 今回の不参加表明について、政権与党や政府の関わりは明らかではない。

 ただ、自民党の衆院議員が、沖縄の市議会議員らに関連予算を否決する手法を“指南”していたことは明らかになった。その衆院議員は、宜野湾市長を伴って首相官邸を訪れ、菅義偉官房長官と面談。同市長が県民投票不参加を表明したのは、その後だ。

 菅官房長官は、記者会見で今回の件について問われても、「県民投票は沖縄がやっていること(だからコメントしない)」と知らぬ顔だが、まったく無関係で済まされるのだろうか。

 いずれにせよ、今回の5市の対応は、厳しく批判されるべきだと思う。

 それでも、沖縄は対立を超えて、民意を問うという大きな目的のために再び動き出した。人々の分断を避けようという、市民団体や与野党議員の努力からは、大いに学びたいと思う。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

【編注】沖縄県民投票について、24日開かれた同県議会の各会派代表者会議により、2択から「どちらでもない」を加えた3択にする条例改正案が全会一致で可決される見通しとなり、全市町村での投票実施が確実となった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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