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花粉症の蔓延、対策を怠った国と東京都の政治的責任…小池都知事、花粉症ゼロの公約反故

文=小川裕夫/フリーランスライター
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林業の衰退と花粉症

 実は、小池都知事が掲げていた政策で、陣営間の対立を超えて幅広く支持される政策があった。それが“花粉症ゼロ”だ。

 今般、花粉症に悩まされる人は多い。毎年2月初旬から飛散を始めるスギ花粉は多くの人を苦しませてきた。花粉症はアレルギー疾患のため、政治では解決できない課題と思われがちだ。しかし、実際は行政の施策によってスギ花粉の飛散量を減らすことは可能。つまり“花粉症ゼロ”はれっきとした政治課題でもある。

 特に、東京都や神奈川県に飛散するスギ花粉は、戦後に林業政策が失敗した結果でもある。戦後、空襲で荒野と化した日本の国土を早急に再興させようとした政府は、まず家屋の再建に取り組んだ。しかし、住戸を再建するための木材は不足。都市と同様に、山林も空襲によって焼き払われていたため、建材となる木は乏しかった。

 住宅確保に動く行政は住戸の建設を急ぐとともに、植林事業も開始。人口が多く住戸が不足していた東京都では、多摩山林に住宅用建材に適しているスギが大量に植樹された。本来なら戦災復興で植樹された多摩のスギは、1970~80年あたりに建材として切り出されるはずだった。

 しかし、スギが建材として生育した頃、社会は大きく変化していた。海外から安価な住宅用建材が輸入されるようになり、高価な国産材は見向きもされなくなる。国産材は買い手がつかなくなり、売れないから山林に植えられた木は伐採されずに放置された。スギ伐採後も、山の保全のために新たな木を植えなければならないが、最近の研究開発で無花粉スギも誕生しており、それに植え替えるだけでも都内近郊のスギ花粉量は激減する。

 政策でまごついている間に、全国の林業は衰退。後継ぎの若者は、どんどん離れていった。後継者不足に陥った林業は、ますます窮地になる。人手がいないから国産材は高騰を続け、住宅メーカーも安価な輸入木材しか使わなくなった。こうして日本の林業は急坂を転げ落ちるように衰退していく。

 小池都知事が掲げた花粉症ゼロ政策を平たく表現するなら、「林業の再生」ということになる。しかし、“林業の再生”というフレーズでは都民に膾炙しない。もう一歩踏み込んで“花粉症ゼロ”としたほうがキャッチーで、都民の多くからも共感を得られる。巧みな小池戦術により、“花粉症ゼロ”政策は一般的にも広まった。しかし、林業を再生するには木材の需要を掘り起こし、販路を切り開かなければならない。

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