ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 花粉症の蔓延、国と東京都の政治責任  > 3ページ目
NEW

花粉症の蔓延、対策を怠った国と東京都の政治的責任…小池都知事、花粉症ゼロの公約反故

文=小川裕夫/フリーランスライター
【この記事のキーワード】, ,

進まない東京都の木材利用

 東京都職員は言う。

「今、東京都内で新規着工される木造建築物は非常に少ない。木造の建築技術は飛躍的に向上しており、7階建てのビルも木造で建設することが可能だといわれています。仮に山手線の内側にある5階建て以上のビルをすべて木造にすれば、多摩山林のスギの木はかなり消費されることになります。そうなれば、花粉症対策はかなり前進することになりますが、現実的な話ではありません」

 木造家屋が少なくなった現在、住宅建材として木の需要を増やすことが難しい。しかし、近年ではクリーンエネルギーとしてバイオマス発電が注目されるようになった。バイオマス発電では木材チップを燃料として使用する。普及すれば木材需要も増えてスギ飛散量が減る可能性はないのか。特に小池知事は環境大臣を務めた経験があり、環境政策は得意分野。東京都でバイオマス発電に取り組むことはないのだろうか。

「バイオマス発電の燃料に使われている木材チップは、発電のために木を伐り出して生産しているわけではありません。製材所などから出た木のクズを再利用しています。木材チップ生産のためだけに木を伐り出していたら、発電コストは相当高くなってしまいます。それでは採算が取れません。結局、木材需要が増えて伐採が進まなければ、バイオマス発電の燃料となる木材チップの生産量も増えないのです」(前出・職員)

 2020年の東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場には、一部に木材が使われることが決まっている。量としては少ないが、新国立競技場というシンボリックな建築物に多摩産材が使われてPRされれば、東京都の林業再生の一助になるかもしれない。しかし、そうしたPR効果も限定的だとの見方が強い。

「国立競技場のような建築物で使われる木材は、国際認証を取得した森林から伐採された木材しか使用できません。国際機関から見れば、“出所不明の木材は信用できない”ということになるのですが、これまでの日本の林業界ではそうした国際認証を取るという概念が薄く、多摩産材は国際認証を得ていませんでした。そのため、国立競技場に多摩産材が使われることはなく、需要喚起にはつながらないでしょう」(同)

 東京都は環境政策の一環として、ビルのゼロエミッション化に取り組んでいるが、ここでも木材利用は進んでいない。東京都が取り組む木材利用は手詰まり感が出てきており、小池都知事も花粉症ゼロを口にしなくなった。

東京23区や民間企業の取り組み

 そうしたなか、東京23区の一部が気を吐いている。新宿区では、区が管理する歩道などに木製の防護柵(ガードレール)を設置。道路に設置されるガードレールは、鋼製が主流。現在、鋼製のガードレールよりも木製ガードレールは製造コストが高いので一気に普及する見込みはない。それでも、全国どこにでもある道路のガードレールを木製に切り替えるだけで、相当量のスギが伐採される。インフラを整備しながら、花粉症ゼロの実現を目指せる一挙両得の政策といえる。また、中央区では公園の遊具や学校のロッカー、公民館などの内装壁に木材を積極的に採用している。

 民間企業では、住友林業が木造を積極的に推進。41年を目標に高さ350メートル・70階建てのビルを建設することを発表しているが、このビルの主要部位をすべて木で賄う計画にしている。東急電鉄も駅ホームに設置するベンチを木製に切り替えているほか、“木になるリニューアル”と銘打って、ホームの屋根や壁といった部分でも木材を使用。防火の制約から車両そのものを木製化することはできないが、内装には使える部分に積極的に木が使用されている。

 こうした動きが出ているものの、やはり東京都が動かなければ効果は限定的になってしまう。旗振り役の東京都が木材利用に沈黙を続ければ、せっかく高まっている機運は萎んでしまう。足元で広がる木材利用に反して、東京都の木材利用の動きは縮小している。小池都知事が盛んに唱えていた“花粉症ゼロ”は、どこへ行ってしまったのか。

 気象庁が発表した今春の花粉飛散量は、例年並みもしくは例年以上になるという。花粉飛散量は、減少どころか増加する気配が濃厚になっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

花粉症の蔓延、対策を怠った国と東京都の政治的責任…小池都知事、花粉症ゼロの公約反故のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!