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小笠原泰「日本は大丈夫か」

日産、実質“国有化”シナリオ…自主独立は幻想、ルノーと日仏政府から逃れられない

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
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 この成否は、市場が両国政府主導の対等合併は、日産ルノーが成長しながら資本効率を高めて時価総額を上げることができると評価するかどうかである。もし、評価されなければ、日産の将来は縮小均衡となるだろう。しかし、この合併は存続会社と本社所在国をめぐり揉めるのは間違いない。第三国にするという選択肢もあるが、これは両政府が嫌うので現実的には両社は両国政府の影響下でアライアンスの最適化を進めるしかないだろう。日産はルノーの介入から離れた途端に、今度は日本政府の介入を受け入れることになる。これが日産経営陣の望むところかはわからないが、フランス人よりは日本人のほうがましというかもしれない。

 これが、日産の日本人経営陣にとっての“神の手”である。安倍首相は依然として「民間企業に口を出さない」という建前を掲げているが、菅義偉官房長官は25日の記者会見で「関係者が十分に納得するかたちで議論が進むことが重要だ」とフランスサイドに釘を刺している。日本では法的根拠が不明な行政指導がまかり通っており、加えて金融緩和で日銀が大量のETF(上場投資信託)を保有しているため間接的に多くの大企業の筆頭株主は日本政府となっている。“間接的な総国営化”といっても良い。日産に請われての今回の介入は、経産省の望むところであろう。無駄に税金を投入することになるが、半導体も含めて日本政府が何度も行ってきた税金の無駄使いに比べれば、リターンは大きいかもしれない。

 これは平たく言えば、フランスと日本という国家がルノー・日産連合を太らせて食むという構図である。日産の日本人経営陣は6月の株主総会で無謀な賭けに出て、「すべてを失うよりはよかった」ということになるのだろうが、企業としてのルノーと日産にとって良かったかは別の問題である。

 両国でのインタレスト調整の過程で、雇用維持(日産も国内生産比率は15%あり重要である)も含めて、取り分の奪い合いが起こるであろうが、フランス政府がすでにルノーと日産の大株主であるので、基本的に日本政府が分け前をくださいと言うことになるのであろう。しかし、フランス政府と対等にはなるまい。そして、その分配比率は、下手な先手を打った分、日本に不利になるのではないであろうか。

ゴーン氏逮捕の一件が示すもの

 よく考えれば、ゴーン氏は日産の日本人経営陣にとって、本当は日産に対するフランス政府からの影響を排除してくれる存在でもあり、日産のグローバル企業への脱皮を促す存在であった。それを今回の逮捕により、フランス政府を前面に引き出してしまい、そのために日本政府を引き出すしかなくなった結果、日産はめでたくグローバル化できない日本企業になったということだろう。これが、西川社長のいう「日本企業としての自主独立」なのであろう。また一つ、グローバル化適応の失敗の例、つまりシーラカンス化の例が一つ増えるということだろうか。

 今回の一件は、国際政治経済の観点で捉えれば、グローバル化によりパワーが減衰する国家がナショナリズムを利用して、パワーを増強しようとして、国からの離脱を試みる企業を叩くことによって、国民に主権回復を印象付けるという事例である。企業同様に国家が競争力を高める必要に迫られるなかで、これはむしろ目先の国家の生き残りの手段といえるのかもしれない。

 日本に関していえば、既存のレジーム(=既得権)を脅かす社会変化(今回は大企業の日本離脱)をもたらす者は日本人でなくとも叩くということを内外に示したことになろう。その代わりに、日本に優秀な外国人経営者ばかりでなく、高度な外国人人材も来なくなるだろう。また、国外のみならず「否認を続けたら保釈されない『人質司法』への非難の大合唱は、国内でも起きている」という日経新聞の記事を引用したが、意図せずして自ら招いた「ガイアツ」によって、これまでの検察捜査のあり方は大きく変わるのかもしれない。「ガイアツ」による変化というのは極めて日本的である。

 今回の論考は論理的な展開の予想であり、今後現実がこの予想どおりに展開するのか、大きく乖離していくのかを注視したい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

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