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白井美由里「消費者行動のインサイト」

テレビCMによる中断、番組をより楽しいと感じさせる効果…中断が消費者行動に与える影響

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 ネルソンらは、楽しさの評価が高いCMを用いた場合にも同様の結果を確認しており、CMによる中断の効果がCMの質とは無関係であることを確認しています。さらに、番組の前後にCMを入れて番組は続けて見てもらう場合と、番組の途中にCMを入れた場合の比較も行っており、後者のほうが番組の評価が高くなったことを明らかにしています。

 CMが好きという人はあまりいないかもしれませんが、CMには番組の楽しさを維持し、満足度を高める効果があるというのは、興味深い発見だと思います。

クライマックス時の中断が消費者行動を促進する

 次に紹介するのは、中断のタイミングについての研究です。クポルらは、動画のクライマックス時の中断と消費者の購買行動の関係を分析しています【註5】。彼らは、ジョークで締めくくられる短いコメディのビデオを用意し、中断のない状況、ジョーク直前のクライマックス時に不具合によりビデオが中断される状況、およびクライマックス時ではない時に不具合によりビデオが中断される状況のいずれかに被験者を割り当て、ビデオを見てもらう実験を行いました。次に、旅行カバンやケーキなど5つの製品カテゴリーそれぞれに2つの商品(AとB)を提示し、「商品Aを選択」「商品Bを選択」「ほかの選択肢を見る」のいずれかを選択してもらい、商品AかBを選択した場合を1、それ以外を0として、それを5つのカテゴリーで合計しました。

 その結果、クライマックス時に中断された状況の購買数が三つの状況の中でもっとも多くなったことが示されました。クライマックス時に中断が生じることによって、購買が促進されるということになります。

 この現象のメカニズムは次の通りです。クライマックス時の中断は、消費者の心理的な「完結欲求」を高めます。この時、別に意思決定の機会があれば、それを代わりに完了させることによって、この完結欲求を満たそうする動機づけが働くのです。完結欲求は、情報探索では満たされないため、完結につながる購買が選択されやすくなるのです。クポルらは、この購買行動が不快な中断からの気晴らし欲求から発生したものではないことも確認しています。このような現象は、自分の決定や行動に物足りなさが残る状況でも発生しやすいと考えられます。

食べ物の匂いがもたらすポジティブ効果は中断によって消失する

 美味しそうな食べ物の匂いをかぐと、食欲がそそられ食事をしたくなることがあります。ムーアは、この食べ物の匂いがもたらすポジティブな効果が中断が入ると消失してしまうことを明らかにしています【註6】。食品の匂いによって食欲が増進するのは、その食品の消費から期待される喜びと関連する脳領域が活性化されるからだそうです。

 実験では、被験者にお皿に載せた25枚のクッキーを見せて、「食べられる」条件に割り当てられているので、数分後に開始するアンケートへの回答中に好きなだけ食べられることを伝えます。このとき、被験者を匂いがある条件か、ない条件のどちらかに割り当てており、「匂いがある」条件に割り当てられた被験者には、温めたシナモンロールの匂いを部屋中に漂わせました。続いて、「中断」条件に割り当てられた被験者には、クッキーを食べようとしているときに、「食べられない」条件の間違えだったと伝え、クッキーを片付けてしまいます。そして、その後すぐに、確認したところ「食べられる」条件の間違いだったとして謝罪し、クッキーを差し出し食べてもらいました。

 分析の結果、喜び、クッキーの消費量、味の評価、および購入意図は、中断が入らなかった場合には、シナモンロールの匂いのあるほうが、ない場合よりも高くなりました。しかし、中断が入った場合には匂いの効果は見られませんでした。つまり、食べ物の匂いによる消費意欲を高める効果は、そのプロセスに中断が生じると、たとえその後すぐに再開できたとしても、消失してしまうのです。中断は、せっかく膨らんだ期待をしぼませてしまい、中断がなかった場合と同じようには楽しめなくなってしまうのです。

 以上見てきた研究からは、中断によって消費者の評価や行動がかなり変化することが示されています。店内では、店員による話しかけ、店内アナウンス、BGMのジャンル変更、目立つ広告、意外なところにある広告などが中断につながり、再開した購買意思決定では品質の高い商品に注意が向けられる可能性が高くなります。また、美味しそうな匂いを漂わせている店では、できるだけ中断が生じないよう配慮するといいでしょう。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献
【註1】Zeigarnik, B. (1938), “On finished and unfinished tasks,” A Source Book of Gestalt Psychology, 1, 1-15 (Psychologische Forschung, 1927, 9).
【註2】Goschke, T. and J. Kuhl (1993), “Representation of Intentions: Persisting Activation in Memory,” Journal of Experimental Psychology, 19 (5), 1211-1226.
【註3】Liu, W. (2008), “Focusing on Desirability: The Effect of Decision Interruption and Suspension on Preferences,” Journal of Consumer Research, 35 (4), 640-652.
【註4】Nelson, L. D., T. Meyvis, and J. Galak (2009), “Enhancing the Television-Viewing Experience through Commercial Interruptions,” Journal of Consumer Research, 36 (2), 160-172.
【註5】Kupor, D. M., T Reich, and B. Shiv (2013), “Can’t Finish What You Started? The Effect of Climactic Interruption on Behavior,” Journal of Consumer Psychology, 25 (1), 113-119.
【註6】Moore, D. J. (2008), “Interrupted Anticipation After a Service Failure: The Role of Olfactory Sensation on Expected Pleasure, Taste Enjoyment, Consumption, and Repatronage Intentions,” Marketing Letters, 24 (4), 399-408.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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