NEW
木村隆志「現代放送のミカタ」

話題のNHK『ゾンビが来たから』に透ける、民放ドラマへのアンチテーゼと受信料への理解促進

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト

 今冬スタートのドラマでもっともネット上をザワつかせているテレビ局はNHKで間違いないだろう。大河ドラマの概念を変えつつある『いだてん~東京オリムピック噺~』、特撮オタクの生態を描いたコメディ『トクサツガガガ』、映画『カメラを止めるな!』(アスミック・エース=ENBUゼミナール)のヒットも記憶に新しいゾンビをモチーフにした『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』……いずれも賛否両論ではあるが、「攻めまくっている!」という声を集めていることは確かだ。

 なかでも、とびきり異色なのは『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』。「NHKがゾンビ?」という意外性と「土曜深夜にオリジナルドラマを手がける」という戦略は、これまで見られなかったものだ。

 ただ、その内容はある意味で「いかにもNHK」が感じられるものだった。さらに、「ゾンビ」「深夜ドラマ」という戦略にはバッシングを受けかねないNHKの思惑が透けて見える。

ゾンビは「便利」かつ「即効性が高い」

 もともとゾンビをモチーフにした作品は古くからあり、映画では定番ジャンルのひとつ。2000年代以降でも、海外では映画『バイオハザード』やドラマ『ウォーキング・デッド』がヒットし、国内でも映画『アイアムアヒーロー』、ドラマ『玉川区役所 OF THE DEAD』(テレビ東京系)、ドラマ『セーラーゾンビ』(同)などが制作された。

 ただ、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』は、そのタイトルが示しているように、いわゆる「パニックドラマ」の要素は極めて低い。

「ゾンビに襲われるほどのことがなければ、自らの問題と向き合えない。本音でしゃべれない。解決に向けて動きだせない」。そんな人々が「ゾンビとの遭遇をきっかけに、生きること、家族や友人との関係、自分らしさを見つめ直す」というヒューマンテイストを前面に押し出したところが、いかにもNHKらしい。

 たとえば、主人公の小池みずほ(石橋菜津美)は、「不倫中の夫から離婚を迫られ、愛情はないにもかかわらず、嫌がらせで拒否している」「人生に投げやりで『いつ死んでもいい』が口ぐせとなっている」という設定の女性。しかし、命の危機に直面したことで、日々流されて放置し続けてきた人生や夫婦の問題と向き合わざるを得なくなった姿が描かれている。

 つまり、「ゾンビより、むしろ人間のほうが恐ろしく、罪深く、だから人生はおもしろい。もっと自分の問題と向き合ってみたら?」。視聴者にそんな問いかけをしているような作品なのだ。その意味で、制作サイドにとってゾンビというモチーフは便利であり、即効性が高く、「展開をせかしがち」「連ドラをじっくり見られない」現代視聴者に合っている。

「若年層対策」に透けて見えるNHKの思惑

 NHKがゾンビをモチーフにしたドラマを土曜深夜に仕掛けたのは、これまでウィークポイントと見られてきた若年層対策だろう。ゲームなどでゾンビが身近な世代に向けた、「こんなNHKらしくない番組もあるので見てください」というメッセージに見える。

 NHKが若年層対策を行う最大の理由は受信料に対する理解促進であり、その背景にあるのは「今年スタート」といわれるテレビ番組のネット同時配信。「ネット視聴に対する受信料徴収」という重大事項が関連している。

『話しかけなくていい! 会話術』 「話がうまい人」になる必要はない。無言でも、ひと言でも、人に好かれるための画期的コミュニケーション術! amazon_associate_logo.jpg
『嵐の愛され力~幸せな人生をつかむ36のポイント~』 嵐に学ぶ人から好かれる、人を好きになれる人間力の磨き方。明日から使える36個の“○○力”。年齢・性別を問わずマスターできる。 amazon_associate_logo.jpg

話題のNHK『ゾンビが来たから』に透ける、民放ドラマへのアンチテーゼと受信料への理解促進のページです。ビジネスジャーナルは、エンタメ、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!