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ポスト五輪の東京~2020年以降も勝つまち、負けるまち~一極集中を裏で支える東京の本当の実力

東京23区、大規模スーパーが出店しても近くの商店街がシャッター通り化しない謎と答え

文=池田利道/東京23区研究所所長

 なるほど、人をかき分けないと前に進めなかったほどのにぎわいは影を潜めていた。それでも通りは多くの人であふれ、行列ができている店も少なくない。

東京23区、大規模スーパーが出店しても近くの商店街がシャッター通り化しない謎と答えの画像3

 都営地下鉄大島駅前のサンロード中の橋商店街は、アリオ北砂から直線距離で1㎞強。2000台を超える駐車場を備えるアリオ北砂にとって、十分に商圏射程内にある。

 300mほどの間におよそ90店が軒を連ねるこの商店街の最大の特徴は、食料品店の多さにあった。その意味では、大規模スーパーの影響をより強く受けやすい。こちらは苦戦やむなしか。いや、今も4割を食料品店が占め、八百屋だけで6店が元気に営業中だ。

全国平均の2.3倍!「銭湯一極集中」の東京

「23区の商店街が活力を保ち続けているのは人口が増えているからだ」という説は正しくない。商店街が内部崩壊を始める1980年代後半、地方部の人口はまだ増加中であったが、23区ではその15年以上前から人口が減り続けていた。江東区の人口は近年急増しているものの、砂町地区は横ばい、大島地区も微増にとどまる。

 サンロード中の橋商店街には銭湯がある。砂町銀座も、商店街の中ではないが、近くに銭湯が営業を続けている。

 2016年の「経済センサス」によれば、東京23区には人口10万人当たり5.5軒の銭湯(一般公衆浴場業)があるという。全国平均(2.4軒)の2.3倍。人口シェア7%の東京23区に、我が国の銭湯の6軒に1軒にあたる17%が集まっていることになる。まさに「銭湯一極集中」だ。

 時代が進むとともに消えていく運命に見舞われていった商店街と銭湯。この両者が、世のトレンドの最先端を走る東京23区に残り続けている。その奥に何が潜んでいるのだろうか。

 今はもうすっかり様変わりしてしまったようだが、かつて銭湯がまちに息づいている地方都市が、筆者の知る限り2つあった。三重県伊賀市上野地区(旧上野市)と千葉県香取市佐原地区(旧佐原市)。いずれも名うての「まつりまち」で、まつりを担う地区ごとのサロンの役割を銭湯が果たしているというのが、地元の共通した意見だった。

東京の商店街や銭湯が過去の遺物にならない理由

 かつて小売店は10時開店、18~19時に閉店が普通だった。セブン-イレブンの名が示す通り、7時に開店し23時まで営業しているコンビニは、ほかの店が閉まっているときでも利用できる、一種の隙間産業として登場する。初期のセブンのキャッチコピーは「開いててよかった」だった。

 公共料金のコンビニ支払いが始まった1987年を境として、コンビニは急増していく。それは、コンビニが物販施設からコミュニティ施設へと進化していく過程でもある。「開いてます」だったローソンのキャッチコピーは、91年に「マチのほっとステーション」へと変わる。今やコンビニは、公共料金の支払いはもとより、各種チケットの発券、預金の預け入れや引き出し、通販購入商品の受け取りなど、物販施設の域を大きく超えた存在へと姿を変えた。

 そんなコンビニでも、店員との会話は無機質なマニュアル問答でしかない。これに対して、商店街での買い物はまずコミュニケーションから始まる。顔馴染みになると、話題が的を射てくるから会話も弾む。お年寄りや子どもたちの見守りも、商店街の大きな役割だ。2011年の東日本大震災は平日の昼に発生したが、住宅地でこの時間帯にまちの事情に精通している男手が集まっている場所は商店街くらいしかない。

 商店街の最大の存在価値は「まちのキーステーション」であること。東京では、今もその機能が保たれている。

 情報は東京から地方へと伝播していく。しかし、情報量が多くなれば、その内容は表面をなぞるだけのものになってしまう。たとえば、入浴の効果を高めるグッズやノウハウの情報はあふれていても、要するに興味の対象は「入浴」という行為だけ。だとしたら、銭湯はノスタルジーか物珍しさの対象にしかなり得ない。商店街もまた然りで、モノを買うだけの場所となれば、スーパーとの勝負は厳しい。かくして、銭湯も商店街も過去の遺物と化していく。

 しかし、情報の発信源である東京は銭湯や商店街のもうひとつの価値をしっかりと評価し続けている。

「東京ひとり勝ち」とは、パワーゲームの結果として東京だけが勝ち残ったのではなく、日常生活の価値評価において、地方が次々と白旗をあげていった結果だったのではないだろうか。一番肝心な人々の日々の生活のあり様を「東京発」という名ばかりの薄っぺらな情報に一方的に委ねた時点で、商店街と同じように地方は内部から崩壊を始めたのではなかったのだろうか。

 東京の商店街や銭湯を前にしたとき、筆者にはそんな想いがよぎってくる。
(文=池田利道/東京23区研究所所長)

池田利道/東京23区研究所所長

池田利道/東京23区研究所所長

東京大学都市工学科大学院修士修了。(財)東京都政調査会で東京の都市計画に携わった後、㈱マイカル総合研究所主席研究員として商業主導型まちづくりの企画・事業化に従事。その後、まちづくりコンサルタント会社の主宰を経て現職。
一般社団法人 東京23区研究所

『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた! amazon_associate_logo.jpg

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