中西貴之「化学に恋するアピシウス」

長芋がスーパーフードといえる理由…美肌効果や風邪予防も

長芋と京人参のチーズソースがけ(撮影=筆者)

 粘り気が独特の食感を生み出す長芋は、単調になりがちな野菜料理にメリハリをつけるとともに、イモ類のなかでは珍しく生で食べることのできる食材です。長芋は栄養のある食品としては認識されていないことが多いのですが、中国では皮をむいて乾燥させたものが生薬として用いられており、整腸、滋養強壮、不老長寿に役立つとされています。

 一方で、長芋のカロリーは100グラム当たり65キロカロリーしかなく、栄養価が高いのにダイエットにも効果的なスーパーフードなのです。多くの人は、料理に芋類が入っているとおなかをふくらませる食材と思ってしまいがちなのが、非常に残念です。どんな食材であっても、「これは血となり肉となる」「これは抵抗力をつける」と意識して接しなければ、スマートフォンを見ながら漫然と口に運ぶだけでは、なかなか効果は出ないものです。

 長芋の栄養成分について見てみると、もっとも特徴的なのはネバネバ成分です。長芋のネバネバにはさまざまな化学物質が含まれていますが、ネバネバの実体はムチンと呼ばれる非常に複雑な構造の高分子です。高分子の一般的な性質として、ムチンは加熱調理すると分解されてしまうため、ムチンの健康成分を漏らさず摂取するには、生のまますりおろしたとろろがおすすめの調理方法です。

 長芋は春と秋がシーズンではありますが、このムチンには粘膜を介した感染症を予防する作用があるといわれているので、風邪が流行する今の季節こそ、ぜひ積極的に摂取したい食品でもあります。さらに、ムチンの粘膜保護作用は胃腸にも効果があるので、会社帰りにちょっと一杯、というときには長芋の短冊を最初に食べると、お酒が胃腸を荒らす作用を抑えることができて効果的です。

 また、ネバネバには食物繊維も含まれるため、最初に食べることによって少量で満腹感が得られ、お酒の勢いに乗った食べすぎを防ぐとともに、利尿作用が活発化しすぎることによる便秘にも効果があります。山芋に比べて水分を多く含む長芋は淡泊な味わいのため、昆布だしやチーズなどの薄い味付けの料理には、調味料の味を引き出しつつ粘りを加える引き立て役としてぴったりです。鉄板で炒めてチーズをかけると、長芋の粘りとチーズの粘りの絶妙なハーモニーがさらにお酒を誘います。

 微量成分として、亜鉛、カリウム、鉄などの血圧低下に効果のあるミネラルが豊富で、ビタミンCも含みます。ビタミンCは抗酸化作用によって免疫力を高め、ムチンとの相乗効果で風邪などの感染症への抵抗性を高めます。また、シミの原因のメラニン色素を減らす作用により美肌効果も期待できます。

 また、デンプンを化学的に分解するアミラーゼ、ジアスターゼを含むので、たくさん食べても胃もたれしません。同じ重さの焼き芋と長芋のとろろを食べ比べてみれば、長芋が胃に優しいことはすぐにわかります。

長芋で発電?青森で国内初のバイオガス発電設備

 国内産長芋の90%は北海道と青森県産ですが、青森県では非常にユニークな取り組みがされています。全国トップクラスの長芋出荷量を誇る、ゆうき青森農業協同組合は、日本では珍しい長芋残渣、つまり出荷に適さない長芋や加工して出荷する際に発生する皮などをバイオ燃料として再利用する、バイオガス発電に取り組んでいます。

 このような長芋残渣は毎日4トンも発生しますが、同農協はこれまで残渣を年間約2000万円かけて廃棄していました。それを発電に利用することによって残渣処理費用を低減するとともに、再生可能エネルギーとしても活用しています。

 これまで、このようなバイオガス発電は設備の建設費用が高額なため、大規模な施設でなければ投資を回収することができませんでした。しかし、新たに豊橋技術科学大学などが養豚農家向けに小規模でも採算が合うシステムの開発に成功。そのシステムを基本に、長芋残渣を燃料とした寒冷地仕様に設計し直し、総事業費わずか1億円で実現しました。従来のバイオガス発電設備はガスを発生させる発酵槽が大きく、発電能力も比較的大きい大規模農場や下水処理施設向けが中心でしたが、1日数トン程度のバイオ燃料で採算ベースにのるバイオガス発電設備は国内初です。

 発電能力は年間約16万キロワット時で、標準的な家庭の約53世帯分の電力を賄うことができます。バイオ燃料による発電は天候の影響を受けないため、電力地域分散型のなかで安定して発電を続けるベースロード電源として大きな意義があります。

 また、同農協は今後、発電の際に発生する熱を隣地に建設するビニールハウスで有効活用して、冬季の農業を可能とする仕組みづくりに取り組む計画です。農業と電力を一体で考えて技術開発するこのような取り組みは、農業コストの低減による農業従事者の収入向上や、循環型農業による食糧生産効率の向上の先駆けといえる取り組みです。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
山芋と長芋、栄養や違いを知っておいしく食す』(VEGEDAY)

青森県東北町で JA ゆうき青森向けのバイオガス発電所が竣工』(日立キャピタル)

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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