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法社会学者・河合幹雄の「法“痴”国家ニッポン」第10回

“強姦冤罪事件”国家賠償請求を棄却、なぜ「公務員のミス」は許されてしまうのか?

河合幹雄
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“悪意ある違法行為”でなければ認められない国家賠償

 まず、国家賠償の定義ですが、これは国家賠償法第1条において、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定されています。

 平たくいうと、公務員が、わざとであろうとミスであろうと、業務上誰かに対して違法に損害を与えたとき、その公務員個人に代わって国や自治体が賠償しますよ、という法律です。ですから当然、今回のように捜査や裁判におけるミスで冤罪が発生した場合にも適用され得るわけです。

 ただ、ここで問題になるのが、「違法に損害を加えたとき」という文言をどうとらえるか、ということ。最高裁の判例では、

「違法行為があったとして国の損害賠償責任が認められるためには、裁判官が違法または不当な目的をもって裁判をしたなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合でなければならない」

「各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったときは、検察官の公訴の堤起および追行は違法行為に当たらない」

とされている。

 要するに、「検察官や裁判官が、悪いことをしようという明確な意図のもとに行ったことでなければ、国家が賠償する必要のある違法行為には当たらない」という判断なわけです。国家賠償法の条文からすれば、「過失によって違法に他人に損害を加えたとき」も賠償の対象となるようにも思われますが、実際の判例から判断すれば、事実上「過失による違法行為」は、国家賠償の対象としてはほぼ認められていないのです。

 これを今回のケースに当てはめると、大阪地裁が国家賠償請求を棄却した理由として挙げた、「検察が、職務上の注意義務を怠ったとは認められず、少女らの供述に基づいて男性に有罪と認められる嫌疑があると判断したことは不合理ではない」「裁判官が、違法または不当な目的をもって裁判をしたなどの特別の事情は存在しない」ということになります。

単なる「公務員のミス」では違法行為に当たらない

 一般的な感覚からすると納得しがたい、こうした理屈がまかり通っているのは、もともと国家賠償法というのが、「公務員のミス」を想定して立法されたものでないことが原因といえます。この法律で想定されているのは、たとえば2010年の大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件のようなものです。当時厚生労働省の局長だった村木厚子さんが、大阪地検特捜部による証拠のフロッピーディスクの改ざんによって、障害者郵便制度悪用事件の犯人に仕立て上げられたあの冤罪事件のような、極端な国家の暴走があったときに備えてつくられています。そもそも、そういうコンセプトの法律なのです。

 今回の強姦冤罪事件においては、担当の女性検察官が当時14歳の少女の被害証言を信じて疑わず、証拠を調べようとしなかった。それがいわゆる未必の故意、つまり、検察官がはじめから被疑者の男性を犯人と決めつけて故意に不利な証拠を排除したのならば、国家賠償の対象となる違法行為と認定される可能性はあるでしょう。しかし判例上、単なるミスや怠慢なら、国家賠償の規定する違法行為には当たらない、と解釈されてしまうわけです。

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