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杉江弘「機長の目」

ボーイングやエアバスの最新ハイテク航空機、悲惨な墜落事故が多発している理由

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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ライオン・エア610便はなぜ墜落したのか

 610便は朝6時20分にジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港を離陸し、7時20分にデパティ・アミール空港に到着する予定であった。しかし、離陸後速度計が実際の速度よりも低く表示し、失速を防ぐためのAOAと呼ばれる機体の迎角センサーに異常が発生した。

 パイロットは常に速度計を重視して操縦するため、低く表示した速度計を信じて機首上げを躊躇、AOAセンサーのトラブルは飛行コンピューターに失速と判断させる結果となり、機体尾部のスタビライザー(水平安定板)を機首下げの方向に動かしてしまったのだ。

 パイロットはその後、高度が落下するのを止めようと、必死に操縦桿を手前に引いて機首上げ操縦を行うものの、操縦桿と連動するエレベーター(昇降舵)をいっぱいに動かしてもスタビライザーによる機首下げモーメントには及ばないため、最後は力尽きて機体は頭から海面にダイビングしていった。

 データによると、機の異常な動きとパイロットとの戦いは11分間に及び、スタビライザーによる機首下げの動きは約24回、落下速度は時速約800キロとなって、ジャワ島の沖合63キロの海面に墜落するというものであった。

 ボーイングはパイロットが油圧によって作動するスタビライザーの異常に対し、操縦桿とは離れた場所にある電動のトリムスイッチ、あるいは油圧スイッチそのものを動かしていれば事故にまでは至らなかったと主張しているが、パイロットにしてみれば離陸直後に速度計とAOAセンサーが異常を起こして急激な機首下げがなぜ発生したのかを瞬時に判断できる余裕もなかったといえよう。

 仮にパイロットが今回のように手動操縦中でも、AOAセンサーなどのトラブルでスタビライザーが機首下げに連続的に動くという新しいロジックを教育や訓練を通して知っていれば、ボーイングの言うような対応ができていたかもしれないが、それがなされていないと回復操作は非常に難しくなる。

 この新しいロジックはこれまでのボーイング737にはなかったもので、私が推察するに、機が失速状態に入る(計器の誤作動を含む)と自動的に機首下げを起こすように、と過去に起きた失速事故を防ぐ目的で導入されたものであろう。

 というのも、以前に冬の降雪時の離陸でピトー管(速度を計測するための空気取り入れ口)の氷結によって、実際よりも速度計が速く表示し、そのためパイロットが大きな機首上げ操作をして失速、墜落するといった事故が続いていたからである。

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

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