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伊藤忠、デサントへ敵対的TOBに発展か…メンツ優先の“勝者なき”泥仕合で利益棄損

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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 加えて、伊藤忠は繊維事業の強化のためにデサントがほしい。オリンピックなどの大規模イベントが控えるなかで、デサントを傘下に置くことは、伊藤忠の繊維事業の強化に有効だ。伊藤忠のトップである岡藤正広・代表取締役会長CEOが繊維分野でキャリアを重ねてきただけに、その思いは強い。昨春には伊藤忠がデサントを買収するとの観測が急速に高まった場面もあった。

 客観的に考えると、デサントにとっても、総合商社とのアライアンスを強化して成長を目指すことは合理的といえる。特に、中国など現地の商習慣や規制がわが国と異なる国や地域においては、総合商社の経営資源を活用することは有効な発想だ。

 それでもデサントは独自路線を行きたい。2018年8月、デサントは伊藤忠による買収を防ぐために、ワコールとの業務提携に踏み切った。これは、伊藤忠にとって“恩人に背を向けること”にほかならなかった。ワコールとの業務提携は、デサントと伊藤忠の対立を決定的にした。

将来に禍根を残す敵対的TOB

 
 デサントは高圧的に指示をするのではなく、自主性を尊重してくれる後見人がほしい。加えて、デサントはMBO(経営陣が参加する買収)を検討するなど、独自路線の確保にかなり執着している。それは、伊藤忠への不信の表れといってもよい。

 関係がこじれるなか、伊藤忠商事は最終手段としてTOBを表明した。ここまでくると、伊藤忠側には、デサント成長の立役者としての“面子”を守らなければならないとの考えが強くなっているようにさえ感じる。

 表向き、伊藤忠は韓国事業への過度な依存がデサントの経営不安を高めると主張している。韓国経済は、財閥企業の輸出競争力を高めて成長してきた。特に、近年の成長は実質的にサムスン電子の半導体輸出に依存してきた。世界的な半導体市況の悪化を受けて、サムスン電子の業績は急速に悪化している。それが韓国経済の減速にダイレクトに響いている。

 客観的にみると、伊藤忠の主張するようにデサントの収益構造には不安がある。それに対してデサントは経営の改善に取り組んでいると、真っ向から対立している。結果論になってしまうが、両社とも、もう少し歩み寄って利害の調整を図ろうとしてもよかった。すでに、TOBに対してデサントの労組やOB会が反対を表明するなど、両社間の心理的な溝は深まっている。それを修復するのはかなり難しい。

 見方を変えれば、敵対的なTOBを通して、経営の再建や強化を実現するのは難しいということだ。投資銀行業務の専門家に言わせると、事業規模が異なる企業のTOBは、特に慎重に進めなければならないという。TOBの対象が相対的に小規模の企業である場合、相手企業による経営支配などへの抵抗感や恐怖心が高まりやすいからだ。

 今回のように、大企業からの圧力が強くなると、TOBは敵対的なものへ変化しやすい。その結果、TOB対象企業では、経営支配への不安などから人材の流出などが起き、経営基盤が弱体化する恐れがある。これが、敵対的TOBの成功は難しいといわれる所以だ。TOBが成立したとしても、デサントは伊藤忠に反発するだろう。敵対的なTOBは将来に禍根を残す恐れがある。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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