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米山秀隆「不動産の真実」

マンション、所有者不明等の物件が1割超に…修繕も解体もできない事例増加が現実味

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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 結局のところ、所有者不明・不在となると、管理組合はその物件の処分に窮することになる。相続放棄には遺産すべての放棄が必要で、マンションだけを選択的に放棄できないが、今後、ほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えれば、放棄が増加していく可能性がある。将来的には、市場価値のないマンションの大半が相続放棄されてしまうといった事態も起こりかねない。放棄しないまでも、相続未登記が増え、権利者に連絡を取るのが難しくなるケースが増えていくことも考えられる。

利用権設定のアイディア

 
 所有者不明・不在の物件が増えてその期間も長引くと、荒廃し物件全体が危険な状態となる可能性が出てくる。2015年5月に全面施行された空家対策特別措置法では、共同住宅は、全室が空室となった時に限って対象となり、特定空家に認定されて解体の必要が生じた場合、代執行の措置を取ることができる。しかし、解体するには現在の相場では、1戸当たり200万円ほどの費用がかかり、50戸のマンションの場合、1億円かかる計算になる。それを自治体が立て替えることができるかといえばかなり難しく、土地を売却できたとしても回収できるかどうかはわからない。

 所有者不明・不在物件が放置され、管理が行き届かなくなる事態を避けるため、長期間空室になっているマンションについて、裁定によって利用権や所有権の設定を可能にするアイディアも提起されている(土地総合研究所<2017>)。管理組合が、仮に将来所有者が現れた場合に支払う補償金を供託した上で権利を得て、利用または処分するというものである。管理組合はこれを賃貸物件として貸し出せば賃料収入が得られ、管理費や修繕積立金に充てることもできるようになるかもしれない。

 利用権設定については、遊休農地の場合は都道府県知事の裁定によって可能で、農地中間管理機構は補償金を供託した上で利用権を取得できる。また、所有者不明の土地については、知事の裁定により利用権を設定し、補償金を供託した上で公共性を持つ事業に使えるようになった。利用権設定は、将来的にはマンションについても検討する必要がある。

放棄の一般ルールの必要性

 
 マンションの場合、仕組み自体が新しいため、土地のように所有者を探索するために何代も遡らなくてならないようなものは存在せず、仮に未登記の場合でも、所有者にたどりつける可能性は高い。しかし問題は相続放棄であり、これは認められている権利とはいえ、残された区分所有者が負担を押し付けられる結果になっている。前述のように、今後、ほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えれば、マンションの相続放棄が増加していく可能性がある。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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