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米山秀隆「不動産の真実」

マンション、所有者不明等の物件が1割超に…修繕も解体もできない事例増加が現実味

文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員
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 相続放棄物件のその後の処理コストが嵩むことを考慮すれば、最初から放棄できる一般ルールを定めておいたほうが望ましいとの考え方に立つことも可能である。民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」との規定があり、登記に放棄手続きを設ければ、所有権放棄が一般に可能になる。国の負担が増すが、放棄時に費用負担を求める仕組みにすればよい。その後、物件と放棄料は管理組合に移せるようにし、管理や処分を行っていくことが考えられる。求める費用負担額としては、例えば、管理費、修繕積立金、固定資産税などの何年か分という設定が考えられる。

 放棄の一般ルールを設けるメリットとしては、相続放棄のように一方的に放棄されるわけではなく、放棄される管理組合の側は放棄料を得ることができ、その後の管理や処分費用に充てることができることがある。この仕組みでは、マンションの区分所有者は、いわば放棄料支払いというマイナス価格で、管理組合に物件を引き取ってもらうかたちになる。この仕組みのデメリットとしては、放棄料が安すぎると簡単に放棄できるため、放棄が爆発的に増えてしまう可能性があるという点であろう。

 一方、現在の相続放棄の仕組みは、相続財産すべてを放棄しなければならないことが一定のハードルになっている。しかし、これには対策を講じることもできる。必要な財産を遺言書で遺贈したり、生前贈与したりしておけば、必要な財産を確保した上、最後に不要な不動産のみを相続放棄して手放すといったことも不可能ではない。こうしたかたちで、なし崩し的に相続放棄が増えていく可能性を考慮すれば、放棄の一般ルールを定めたほうが、まだましだとも考えられる。

 もちろん、先に紹介したような、所有者不明・不在となって長期間経過した後で、利用権や所有権を設定する仕組みでも悪くはないが、それには時間を要する。不要なものは最初から放棄料を支払う条件で放棄を認め、管理組合がその後の利用や処理を早期に考えるほうが合理的だと考えられる。

解体費用積み立ての仕組み

 ただ実際問題としては、放棄料を支払ってまで捨てたいマンションは、たとえコミュニティースペースや賃貸物件として管理組合が一時的に利用できたとしても、売却はできない可能性が高い。最終的に直面する問題は、建物の寿命が尽きた時点での、区分所有権の解消、解体という問題である。

 より大きなマンションに建て替え、売却できるなどの好条件を備えていれば、解体費の心配をする必要はないが、そもそもそのような好条件の物件が放棄される可能性は低い。放棄されるような物件が心配しなければならないことは、最後の解体の問題になる。危険な状態になった時、自分たちで解体できない場合、代執行など公費解体にならざるを得ない。

 こうしたことを考えれば、今後は、区分所有者はあらかじめマンションの解体費用を積み立てておく必要性が高い。現在、定期借地権の期間(50年以上)を満了すると地主に土地を返さなければならない定借マンションでは、一戸あたり最終的に200万円程度になるよう解体費用が積み立てられている(齊藤<2014>)。一般のマンションでも計画的に積み立てておけば、仮にその後、所有者不明・不在になったとしても解体費用を心配する必要はなくなる。

 このように所有者不明・不在のマンションの増加は、放棄された管理組合の側が過度に不利益を被らないような放棄の一般ルールの仕組み、そして最終的に解体しなければならないことを考えると、当初から解体費用を積み立てておく仕組みの必要性を問題提起している。

 なお、ここまで述べてきたことは、マンションの管理組合が機能していることを前提にしてきたが、管理組合が機能していない場合は、放棄が増えた物件についてはその後の管理、処分を行う受け皿機関のようなものも必要になるかもしれない。
(文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員) 

【参考文献】
齊藤広子(2014)「マンションにおける空き家予防と活用、計画的解消のために」 浅見泰司編著『都市の空閑地・空き家を考える』プログレス
土地総合研究所(2017)「人口減少下における土地の所有と管理に係る今後の制度のあり方に関する研究会 平成28年度とりまとめ」『土地総合研究』春号

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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