120 km/h対象車でさえも、トロトロと追越車線を走り続けるドライバーが少なくない。速度差が広がったことで、ドライバーのイライラも重なる。昨今、大きな社会問題になっているにもかかわらず、相変わらず散見される“あおり運転”のきっかけになりはしないかと気をもむ場面もあった。
ドライビングスキルの向上が不可欠

この問題を考えるうえでは、速度無制限のドイツの高速道路「アウトバーン」が参考になる。区間によっては200km/hでも300km/hでも走行が許されているアウトバーンは、速度差が開きすぎるがために、トラック等の低速走行車が追越車線に乗り入れることは禁止されている。
並走する追越車線が順に平均速度が下がるため、トロトロ運転の乗用車も自らに適した車線を選んだ走行をする。背後を確認せずにフラフラと高速レーンに割り込んでくるドライバーは皆無だ。速度差があることを理解しているドイツ国民は、それが自殺行為であることを理解しているからだろう。
新静岡インターチェンジ〜森掛川インターチェンジ間の120km速度規制区間を走行した顛末を個人のFacebook上で公開したところ、「アウトバーンを見習うべきだ」とする意見が多数寄せられた。
ちなみに、ドイツ人のドライビングスキルは、日本と大きな隔たりがある。世界最速の高速道路アウトバーンがあり、一般道であっても100 km/h走行が許されている。その地で育ったことで、クルマを操る能力が磨かれるのだろう。
同時に、安全意識も高い。アウトバーンでさえ、環境負荷を嫌う街付近やカーブの多い区間では130 km/hに制限される。あるいは、学校やスーパーマーケットのある市街地では30 km/hになる。その130 km/h区間や30 km/h区間では、ドライバーは厳格に速度を守るのである。
今回、取材のために120km速度規制区間を走った経験からすると、クルマの性能を考えれば120 km/hでもまったく不安がないが、運転スキルの向上と意識改革が急務だと感じた。クルマの性能が高まり自動車大国に成長した日本が、ドライバーのスキル向上を置き去りにしてきたことのツケは大きい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)