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江川紹子の「事件ウオッチ」第123回

江川紹子による考察…日産ゴーン氏・異例の保釈の背景と過熱取材による弊害

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保釈後のカルロス・ゴーン氏(写真:つのだよしお/アフロ)

 日産自動車の前会長で、金融商品取引法違反や特別背任罪で逮捕・勾留されていたカルロス・ゴーン氏が保釈された。特捜事件で否認している被告人が、公判前整理手続が始まる前に保釈となるのは画期的な事例。ただ、拘置所を出る時の服装が話題となり、その後もゴーン氏の身辺にはビデオカメラを持ったメディア関係者が群がるなど、典型的なメディアスクラム(集団的過熱取材)の様相を呈している。

異例の保釈の背景は

 特捜案件で否認していると、起訴後も身柄拘束が長引くのが一般的。現実に証拠隠滅の恐れはさほど考えられないケースでも、検察側が口裏合わせなどの危険性を強調すると、裁判所はそれに引きずられ、なかなか保釈を認めない。公判前整理手続が終了し、裁判で証言予定の重要証人が決まると、ようやく、その証人との接触を禁じるなどの条件を付けて、保釈が認められることになる。

 JR東海のリニア中央新幹線建設をめぐって談合があったとされた事件でも、談合を認めた2社の担当者は逮捕も起訴もされない一方、否認した2社の担当者は280日間にわたって身柄を拘束された。メールや入札関連の資料などの物証はすべて検察が押さえ、重要証人は検察に協力しているなど、具体的な証拠隠滅の恐れは考えにくいケースだったが、保釈が認められたのは、初公判の約2カ月前だった。

 日産ゴーン事件では、司法取引によって日産側が資料を提出するなど捜査に全面協力。検察側は、物的証拠は押さえているうえ、ゴーン氏はすでに会長を解任されるなど、同社内の人たちに対する影響力を失っている。日産側もゴーン、ケリー両氏との接触を社員に禁じており、口裏合わせによる証拠隠滅の可能性はないに等しいと思われる。

 それでも、前2回の保釈申請を、裁判所は従来のパターン通りに退けた。3回目の申請となる今回、裁判手続きの進行状況は、前回とさしたる変化はない。それにもかかわらず保釈が認められたのは、新たに弁護人となった、弘中惇一郞弁護士や高野隆弁護士ら刑事弁護のプロ集団が力量を発揮した結果だろう。そして、実は裁判所も、本音では本件はできるだけ早くに保釈を実現したかったのではないかと思えてならない。

見え隠れした裁判所の“本音”

 日本の刑事司法については、以前から国連などの国際機関で批判の対象になっていた。2013年の国連拷問禁止委員会では、委員のひとりから「日本は自白に頼りすぎではないか。これは中世の名残だ」と非難された。

 しかし、こうした国際機関での批判に、日本当局の反応は概して鈍い。この時も、「日本は中世ではない。私たちは、この分野で世界でももっとも進んだ国のひとつだ」(上田秀明・人権人道大使)と反論して済ませた。その状況は、一部メディアが小さく報じただけだった。

 ところが本件は、国内外からの注目を浴び、連日大きく報じられた。日本の刑事司法についても、各国の有力メディアで批判と共に伝えられた。特に、先進国では当たり前になっている取り調べの弁護人立ち会いが認められないことや、否認していると長期に身柄拘束が続く「人質司法」については、驚きをもって世界に発信された。

 海外の反応は、国内にも波及した。経団連の中西宏明会長は定例会見のなかで、勾留長期化を批判していることを欧米メディアが批判的に報じていることについて、「率直に受け止めるべきだ」と述べた。そして、「日本のやり方が、世界の常識からは拒否されている事実をしっかりと認識しなければならない」と語っている。

 このままの状態が続けば、日本の司法に対する否定的な評価が内外にさらに広まると、裁判所は懸念していたのではないか。ゴーン氏らが逮捕された最初の金商法違反事件で、裁判所が検察側の勾留延長請求を認めず、しかも、その理由を報道各社に公表するという異例の対応をしたのは、そうした懸念の表れと思われる。

 もし、ゴーン氏らの裁判で無罪判決が出されるようなことになれば、長期の身柄拘束をしていた裁判所の判断は、さらに厳しい批判にさらされることが予測される。裁判所としては、できるだけ早期に保釈して司法に対する批判を終息させたい、というのが本音だったのではないか。かといって、あからさまに本件を特別扱いすれば、司法の公正性が疑われ、これまた批判の原因となる。これを機に「人質司法」を排する大胆な方針転換を行えばいいのだが、裁判所としてはそこまでは踏み切れない。そんな悩ましい状況を察し、裁判所が受け入れやすいボールを投げられるかどうかが、弁護人の腕の見せ所だったのではないか。

 ゴーン氏と共に逮捕された日産前代表取締役グレッグ・ケリー氏の場合は、持病の悪化を心配する妻のメッセージをネット上で公開。治療の必要性という人道上の課題を世界中に流布させたうえで、弁護人が海外に渡航できないようパスポートを預かるなど、具体的な提案をし、昨年暮れに保釈された。同氏の弁護人である喜田村洋一弁護士は、弘中弁護士と共にいわゆる「ロス疑惑」の三浦和義氏(故人)や「陸山会事件」で強制起訴された小沢一郎氏の弁護人を務めるなど、多くの困難な事件を担当し、無罪判決も獲得してきた刑事弁護のプロである。

 一方、当時ゴーン氏についていた大鶴基成弁護士の場合、東京地検特捜部長など長い検事歴のなかで、権力をバックに被告人の保釈を阻止した経験は豊富だろうが、裁判所を説得して早期保釈を実現した経験はあまりないはずで、失礼ながらその方面のアイデアもそうはなさそうだ。そこを素早く見極めて、弘中弁護士ら刑事弁護のプロに弁護人を切り替えたのは、ゴーン氏流の危機管理だろう。

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