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江川紹子の「事件ウオッチ」第123回

江川紹子による考察…日産ゴーン氏・異例の保釈の背景と過熱取材による弊害

文=江川紹子/ジャーナリスト

 ゴーン氏が自身の主張を肉声で語るのを早く聞きたい、というのは理解できる。だが、弁護団はできるだけ早い時期にゴーン氏の記者会見を設定すると言っているのだから、それを待てばいいのではないか。それに、弁護人の助言を受け入れているゴーン氏が、弁護団と入念な打ち合わせもしないまま、散歩の途中で中途半端な発言をするはずがない。実際、ゴーン氏は「ノーコメント」と言って、コメントを拒絶する意思表示をしている。

 カメラを手に追いかける人たちは、「取材の自由」を行使しているつもりかもしれないが、長い目で見れば、かえって取材の自由を阻害し、報道の自由にとって有害な行為ですらあると思う。報じる側は、テレビの視聴者は「堕ちたカリスマ経営者」の姿を見たいと思っているのかもしれないが、世の中はそういう人たちばかりで構成されているわけではない。家族まで執拗に追い回す様に不快感を抱く人も大勢いる。

 現に、ツイッターでも、以下のような批判的つぶやきがいくつも見られた。

「ゴーン被告のニュースなんだけど、見ていてマスコミの人に嫌気がさす。そこまで張り込まなくていいんじゃないの?」
「ゴーンさん追っかけまわしてるマスコミほんとバカみたいだな」
「マスゴミさん、ゴーン少し放っておいてあげろよ……。特集も組む必要ないだろ、もっと世の中の役に立つことやれよ」
「ゴーンの取材ひどすぎる。家族がミネラルウォーター買ったとか、プライバシー完全無視やん。家族まで食い物にするなよマスゴミ」
「ゴーン前会長。保釈中に家族で公園に散歩に行くのは自由だろう。それをマスコミが寄ってたかって追いかけ回す。これが自称『国民の代表』ですか。こんなイジメみたいな行為は頼んだ覚えはない」

過熱取材がもたらすものは

 過熱取材は、メディアに対する不信感を広げ、「マスゴミ」などと呼ばれる一因になっている。さらに、大きな事件事故の際に、当局が関係者の氏名を明らかにしないことも正当化させてしまう。いくらメディアの側が、報道の意議を主張しても、人々がそれをなかなか支持してくれないのは、今回のようなふるまいを見ているからだろう。

 過去には、松本サリン事件の第一通報者だった河野義行さんのように、無実の人が犯人視され、サリン中毒の後遺症で体調が悪いなか、家族ともどもメディアに追い回された悪例もある。ゴーン氏も無罪を主張しており、メディアは無罪推定の原則に立って対応を考えるべきだ。

 過熱取材の中で惨劇が起きた事例もある。たとえば、オウム真理教の村井秀夫幹部刺殺事件。犯人は、200人を超える取材陣が村井幹部を取り囲んだ時、その中に紛れ込んで刺した。教祖の側近である村井の死は、オウム事件の真相解明にも影響を及ぼした。

 そもそも、こうした事件でメディアがスクラムを組んで対峙すべきは、1個人である被告人よりも、むしろ検察当局ではないのか。

 ゴーン氏の保釈が認められた後、東京地検の久木元伸次席検事は記者会見で、住居の監視カメラなどの保釈条件について「証拠隠滅を防ぐ実効性はない」などと批判した。これまで同検事は、長期の身柄拘束は「裁判所の判断に基づいている」と、検察の正当性を主張してきた。裁判所の権威をさんざん錦の御旗にしていた検察が、保釈を認めたとたん裁判所批判に転じるというのは、ご都合主義のそしりを免れない。

 そのような検察に対して、「証拠隠滅のおそれ」などといった抽象的な表現ではなく、いかなる証拠が、どのように隠滅される危険性が、どの程度現実的にあるのか、具体的に説明するよう、時には徒党を組んで問いただしてこそ、メディアは権力の監視役と胸を張れるのではないか。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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