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片山修「ずだぶくろ経営論」

世界で唯一無二の「マツダのクルマ」を生む、データの限界を突き破る開発手法の全貌

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日本の伝統工芸に学ぶ


 マツダのモデラーには、「クリエーター」としての高い能力が要求される。だから、モデラーたちは、自己研鑽を怠らない。例えば、日本の伝統工芸に学ぶ。長い年月をかけて培ってきた美しさの表現に向き合い、刺激を受けるためである。新潟県の無形文化財に指定されている玉川堂とのコラボレーションは、その一例だ。共に作品をつくることで、互いにものづくりの技法を学び合う。

「現代工芸の人間国宝の方たちと一緒に仕事をすることもあります。彫刻家とか陶磁器作家の方たちとは、非常にマインドが近いものがあるんですね」と呉羽は言う。

 とりわけ、デザインの最終段階の確認に使われるハードモデルをつくるハードモデラーにとっては、日本工芸からの学びは大きい。ハードモデラーは、ドアノブの形状、インパネの質感など、パーツを正確に再現する力量が不可欠である。伝統工芸家が手掛けた工芸品を通して、接合部や表面処理のアイデアなどを学び、技量の向上につなげているのだ。モデラーの美への探究は、さらに時代をさかのぼる。

「現代の工芸だけでなく、室町、平安時代にさかのぼって、日本人がいかに精密な工芸品をつくってきたかを分析してみようと思っています。それによって、日本の美の根源にたどりつけけるのではないかと考えているんですね」

 茶道で使われる茶碗は、まん丸なきれいなかたちではない。あえてひねりを加えることによって、味を出す。それは、日本文化に特有の遊び心といえるだろう。

「はずしたり、崩したり、大きさを変えてみたり、ちょっとテンションをかけたりする。近くで見ると、インパクトがあるんだけど、遠目で見ると美しいというような表現がありますね。はずしても、美しさが感じられるのは、大枠の中でそれをやっているからです。全体のバランスがとれているんですね。

 じつはマツダのクルマにも崩しのデザインが取り入れられています。黄金比率にのっとったクルマでは、インパクトがありません。心に残らない。だから、あえて外す。外すと、そこがアイキャッチになって、心に残っていくんですね」

 マツダは世界一流のデザインにも目を向ける。一例は、イタリアのミラノで開催される世界最大規模の家電見本市「ミラノサローネ」への出展だ。マツダは、「ミラノサローネ」にクルマ以外のプロダクトを出展し、マツダデザインの本質を発信している。

「クルマの量産にどんなパーツの形状が適しているのかを突き詰めるには、いろいろな経験を積むことが必要です」

 2015年、デザイン部が造形を手掛けた「魂動」コンセプトのソファと自転車を「ミラノサローネ」に出展した。ソファの本体には黒い皮革が張られ、脚部はアルミニウムでできている。人が座るとその重みでソファ背面の皮が伸び、赤い模様が広がることで躍動感を感じさせるデザインとなっている。美しい家具は、生活を豊かにする。同様に、美しいクルマは人生を豊かにする。

「日本のプロダクトを世界に理解してもらいたい。傍らに置きたいと思ってもらえるようなものをつくっていきたいですね」

 美に対する呉羽の思いは、熱いのである。

 逆説のようだが、マツダがグローバル市場を意識すればするほど、日本発のブランドを意識せざるをえない。世界市場2%のマツダが、欧米ブランドと同じことをしていては、埋もれてしまうからだ。マツダが日本のモノづくりの精神が息づくクルマを意識する理由はここにある。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

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