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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラが、リハーサル終了時間を“絶対にオーバーしない”理由

文=篠崎靖男/指揮者

 一方で、リハーサルの休憩時間には、国民性が出ます。イタリアのある地方のオーケストラを指揮した時は、毎回、休憩時間が終わってステージに行ってみると、僕ひとりでした。仕方なしに指揮台に立っていると、なんとなくぞろぞろと集まってくるのです。日本のオーケストラでは、こんなことはまずありませんが、そんな感じの国は少なくありません。僕も日本人らしく、きっちりと時間を守ることがバカらしくなったくらいです。

 しかし、そんな時間にルーズな国のオーケストラでも、終了時刻は絶対に破ることができません。少しでもオーバーすれば、今までにこやかだった楽員の顔が怒りに満ち始めることは以前に本連載でも書いたことがありますが、大概はその前に楽員のタイムキーパー係が、「マエストロ(指揮者)、リハーサル終了時間です」と練習を止めるのです。

 かつて英国のボーンマス交響楽団を指揮した際、セカンド・ヴァイオリンを弾いているタイムキーパー係は時間にとても厳しかったことを覚えています。「この腕時計は、BBC(英国公営放送)に合わせてある」と胸を張っていました。彼は演奏しながら、「10、9、8……」と頭の中でカウントダウンして、「マエストロ、おしまいです」と告げるのです。休憩の時間の場合は、曲のちょうどよい切れ目まで少々のフレキシビリティをもたせることが多いのですが、リハーサルの終了時間に関しては1秒たりとも伸ばすことはできません。

 アメリカのオーケストラでは、ステージマネージャーが30秒くらい前から時計を見ながら指揮者の横に立っていて、相手がどんなに世界的に著名な指揮者であろうとも、終わりの時刻ピッタリに肩をトントンと叩くのです。指揮者としては、休憩時間や終了時刻が来る前に練習をやめるのが無難です。

オーケストラが時間に厳しい理由

 ここまで時間に対して厳密にしている背景には、これまでの楽員と事務局との闘争の歴史があります

 実は、世界中のオーケストラは組合に守られています。組合がないオーケストラも一部にはあるのですが、そこはしっかりと楽員と事務局の協議による協定が結ばれています。

 かつては、指揮者の権限が絶大でした。日本のオーケストラの話ではないのですが、楽員が「もうおしまいの時間ですから、僕は帰ります」などと言おうものなら、「もちろん帰っても良いよ。ご自由に。でも、明日から来なくてもいい」と、クビを宣告されることもありました。産業革命の頃に労働者が資本家に雇われている立場であったのと同様だったのです。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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