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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

“超過勤務”教員募集パンフ問題が問う、過労死スレスレで働く教員たちの悲鳴

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 仙台市の教育委員会が作成した教員募集案内(パンフレット)が話題になっている。

 その募集案内では、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の先生たち9人の1日の勤務実態が、起床時間、学校到着時間、その後の授業時間、休憩時間、会議の時間、部活指導の時間、文書作成の時間、教材研究の時間、退勤時間というように、具体的に紹介されている。

全員が超過勤務の衝撃

 

“超過勤務”教員募集パンフ問題が問う、過労死スレスレで働く教員たちの悲鳴の画像2『自己実現という罠』(榎本博明/平凡社新書)

 教員志望者にとって、具体的な勤務実態の紹介は、非常にわかりやすく有用な情報と思われるが、その9人全員があからさまな超過勤務であることから、賛否両論が巻き起こっている。確かに、このような募集の仕方に対する見方は、立場によって分かれるのが当然と思われる。

 否定的な見方としては、そんなブラックな働き方の実態を知らせたら、教員志望者が減ってしまうし、募集案内としておかしいのではないかという意見があり得る。できるだけ多くの優秀な人たちに教員になってほしいと思っている場合は、そのような否定的な印象を持つかもしれない。

 一方、肯定的な見方としては、過酷な勤務実態を隠蔽せずに、知ってもらったほうが、それなりの覚悟のある人が応募するから、いざ就職してから「こんなはずじゃなかった」と衝撃を受けるような事態を防ぐことができるといった意見があり得る。教員を目指している場合や、教育現場で「こんなはずじゃなかった」といって辞めていく若手を間近に見ている場合は、そのような肯定的な評価をするだろう。

 さらには、上述のものとは別の意味で否定的な見方として、超過勤務を当然とみなしているような募集案内を作成すること自体、過労死水準とされている学校教員の働き方を改善しようという姿勢が教育委員会にないことのあらわれであり、それは由々しき問題だといった意見があり得る。

 身内に教員がいて、あまりに過酷な勤務実態を心配している場合、あるいは自身が教育現場に身を置き、このような現状は改善すべきであると思っている場合などは、とくにそうした印象をもつはずだ。

 この教員募集案内について報じた河北新報によれば、紹介されている教員全員が超過勤務であることについて、3月5日の市議会で市議から指摘があり、さらに市議は、「長時間労働を是とするメッセージ性を感じざるを得ない」と市教委の姿勢をただした(河北新報ONLINE NEWS 2019年3月6日)。仙台市教委の教育人事部長は、「教員の一日の様子が分かるような記述があるとよいという受験者の要望を踏まえた」と説明したという。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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