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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

“超過勤務”教員募集パンフ問題が問う、過労死スレスレで働く教員たちの悲鳴

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 福井県教育委員会の調査によれば、16年5月の公立教職員の1日の平均勤務時間は、昼休み1時間を含めて、中学校12時間34分、小学校11時間38分、高校10時間52分となっており、県の条例で定められた勤務時間7時間45分を大幅に超えている(福井新聞 16年12月10日)。

教職現場の実態を世の中に広めるのは大事なこと

 
 私は、世の中の多くの人々に教育現場の実態を知ってもらうことは、非常に大事なことだと思う。

 次世代を担う子どもたちを教育するというのは、社会的意義の大きい、非常に重要な仕事であり、とても夢のある仕事だ。そんな夢をもって教員採用試験を突破し、晴れて教員になれたのに、いざ就職してみると、あまりに過酷な勤務の現実があり、「こんなはずじゃなかった」といった思いに駆られ、疲労感と葛藤に苛まれる。そのようなことが、あらゆる教育現場で起こっている。

 冒頭で、今回話題となった仙台市教育委員会の教員募集案内に対する肯定的な見方として、過酷な勤務実態を隠蔽せずに、あえて示すことで覚悟ある人材が得られるといった意見もあり得るとしたが、それは超過勤務だらけの過酷な勤務実態を容認することになりかねない。

 超過勤務を当然とみなしているような教員募集案内はけしからんといった否定的な見方も紹介したが、それでは過酷な勤務実態を隠蔽するほうがよいのかといった問題になってくる。

 この教育委員会の教員募集案内が、超過勤務を当然とみなす立場から作成されたものなのか、それとも超過勤務の実態を世の中に広く知らしめて改善を促したいという立場から作成されたものなのか、それはわからない。
 
 だが、教職現場の過酷な勤務実態を教員募集案内にまで掲載して論議を呼んだという点で、作成者の意図は棚上げするとしても、一定の役割を果たしているといってよいのではないだろうか。

 政府が主導する働き方改革においては、脱時間給制度などといって勤務時間規定に縛られない働き方を可能にする方向が模索されている。だが、以前から超過勤務手当がなく、いわゆる裁量労働制が導入され、脱時間給制度となっている教育現場では、超過勤務が多すぎる教員の身を守るためにはタイムカードの導入が必要ではないかといった声もあがっている。いくらやりがいのある仕事だからといって、過労死水準の労働を強いるわけにはいかない。

『「空気」の研究』において興味深い日本人論を展開した山本七平氏は、日本では空気が最大の権力者だとしたが、教育現場の過酷な勤務形態を改善するためにも、さらには働き方改革によって似たような過酷な状況があらゆる労働現場に現出してくるのを防ぐためにも、こうした現状を多くの国民に知ってもらわなければならない。

 そして、時間に縛られない働き方を日本社会に導入しようという発想が、経営側には都合がよくても、労働者側にとっていかに危険なことであるかを、世の中に広く知らしめる必要がある。

 空気が支配する日本においては、何かを変えたいときには空気を動かし、世論を形成する必要がある。過酷な労働条件を改善するためには、何よりも最大の権力者である空気を味方にすることが大切となるのである。
(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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