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成馬零一「ドラマ探訪記」

『まんぷく』朝ドラの“プロジェクトX化”の成功と福子の物語描写の失敗

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家
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 しかし、2010年代の朝ドラは、朝ドラヒロインの欺瞞を自己批判することで現代的な存在へと更新していった。北川悦吏子脚本の『半分、青い。』はその到達点といえるような作品で、ヒロインに関しては、これ以上の冒険はしばらくできないだろうと思っていた。

 とはいえ、安藤サクラが朝ドラヒロインを演じるのなら何か新しい試みがあるのではないかと期待したのだが、福子の物語は盛り上がりに欠け、残念ながら彼女の魅力は引き出せていなかった。

絶妙だった長谷川博己の萬平

 対して、夫の萬平はとても魅力的だった。萬平は発明家兼経営者として能力も人望もあるのだが、理想主義者ゆえに視野狭窄に陥りやすく、すぐに周りが見えなくなってしまい暴走する、愛すべき困ったちゃんだ。萬平のような強さと弱さを兼ね備えたアンバランスな人間を演じさせると、長谷川博己はチャーミングである。

まんぷく』は、萬平の発明や会社など経営面での確執を物語の中心に据えており、福子が結婚して子どもを産み、母として成長していく姿や家族とのやりとりはコミカルに処理される。つくり手の関心が会社パートにあるのは明確だ。その意味で、『プロジェクトX』(NHK)を朝ドラという枠組みの中でやりきった作品だといえる。

 理想を語っては周囲に迷惑をかけるが、基本的に愛されている萬平は劇中で「甘い」と批判される。そんな姿を見ていると、萬平こそが『まんぷく』の“朝ドラヒロイン”だったのだろう。

 20年度上半期の朝ドラ『エール』の主演は窪田正孝だと発表されている。今まで少数だった男性主人公だが、『まんぷく』の萬平を見ていると、朝ドラヒロインを男性が演じることは、今後、当たり前になっていくのではないかと思う。つまり、萬平という男性を朝ドラヒロインとして描いたことこそが、『まんぷく』の発明だったのだ。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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