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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」第45回

オーケストラ奏者、なぜ「難聴」にかかる人が多い?ケガとの戦い続く“過酷な職業”

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ケガや故障で収入がゼロになる演奏家

 ところで、シューマンほどではないにしても、モーツァルトやベートーヴェンをはじめとして、どの作曲家も当たり前のように使用している“刻み”ですが、ヴァイオリンやヴィオラのように左肩と首の間に楽器を挟み、右手に持った弓で演奏する楽器の場合は、右肩に負担がかかってきます。特にセカンドヴァイオリンは、右手から一番遠い場所に張られてある低い音の弦を弾くことが多く、そのために右肘を上げることとなり、そのような状態で弾き続けていると、年月を経て、右肩を故障してしまう奏者が結構いるのです。しばらく静養して治ったとしても、仕事場に戻るとまた同じ動きをしなくてはならないので、再発する方も少なくありません。

 管楽器でも、フルートは右肩を上げて演奏する横笛なので、肩こりに悩まされると聞いたことがあります。打楽器奏者は腱鞘炎になることが多いようです。そして、オーケストラ全体としては、長年大きな音の中で演奏していることで惹き起こされる職業病として「難聴」があります。欧米では耳栓をして演奏する奏者も多いのですが、何よりも“自分の音”で耳がやられるのだと、アメリカの新聞で読んだことがあります。

 演奏家は、楽器が弾けなくなったら即失業、すなわち収入がゼロになります。そのため、故障しないように人一倍気を遣うのは、スポーツ選手と同じです。ピアニストのなかには、包丁を使うことすら避ける人もいるくらいです。そういえば、僕が指揮者を務めていた海外のオーケストラにいたヴァイオリン奏者は、ニンジンを切っているときに指先を切ってしまい、治っても楽器を弾くための感覚が戻るまでに、半年以上もかかってしまったことを思い出しました。彼女はオーケストラ楽員だったので、休業手当をもらうことができましたが、ソリストならば収入はまったくゼロになったことでしょう。

 ところで指揮者はというと、「右手がダメなら、左手に指揮棒を持てばいい」と言いたいところですが、うっかり転んだような時には「右手をケガしていないか」と、まずは気にするのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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