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中曽根陽子の教育最前線

中学受験「多様化」の実態とワケ…英検準1級並み、プログラミング、AIについてプレゼン

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 例えば難関思考力入試では、「日本の高齢化と医療とAI」をテーマにした資料を読み込み、AIの進化に伴うメリットとデメリットを考えた上で、高齢化社会の医療でのAIの活用方法と人間の役割をレゴと文章で表現し、プレゼンすることが求められた。この入試で問われるのは、情報を取り出す力、比較分類する力、統合して解釈する力、意図を持ってアイディアを形にできる能力、説明する力だと学校は説明する。

 進学校として人気があがっている東京都市大等々力中学校(東京都世田谷区)でも、一般入試の他に、算数1教科型とアクティブラーニング型入試を実施している。今年のアクティブラーニング型入試のお題は、犬型ロボットaiboを例にとりながら、「AIが進化した未来の社会で、人々が幸せになるために、どうしたらいいのか」というもの。この大きな問いに対する答えを初見の資料を読み解き、個人ワークとグループワークを交互に行いながら探していく。

 同校では、東大CoREFが開発した「知識構成型ジグソー法」というプログラムを教員研修を重ねて授業にも取り入れており、入試でも、そのメソッドが使われている。この入試で問われるのは、与えられた資料を協働して読み解き、深く考えることができるか、多様なものを認める資質、肯定否定両面から考察できる批評力、意欲と協調性など。

 入試担当教員は「単に積極的に発言しているかということだけではなく、どれだけ人の話を聴けたか、意見をまとめられたかを見ている」と話す。基準に達しなければ合格者数は定員を下回る可能性もあるという厳しいものだが、今年は20名の枠に83名が挑み10名が合格した。

東京都市大等々力中学校のアクティブラーニング型入試の様子

御三家レベルの課題に挑戦する子どもたち。新タイプ入試は、学力の定義を変える可能性大


 それにしても、学校にとってはかなり手間のかかるこのような入試を行う理由はなんなのか。その背景には、前述の公立中高一貫校受験生を取り込みたいという意図もあるだろうが、2020年度から実施される大学入試改革に始まる教育改革の影響も大きい。実社会では、明確な答えのない課題に対して、分析し最適解を導き出し、チームになって解決する力が求められる。そのときに必要になるのが、新学習指導要領でも謳われている、思考力・判断力・表現力だからだ。

 一部の私学では国の教育改革に先駆けて、数年前からそうした能力の育成を重視したプログラムを学内で実施し、入試にも反映し始めている。その結果、出題された問題に対する正解を導き出す力が測られる従来の教科テストでは見えない、別の能力があるということが実証され始めているようだ。

 聖学院の思考力入試で課される問題のレベルは、御三家といわれる超難関校と引けを取らないが、この学校の入試偏差値は47(首都圏模試調べ)。偏差値だけを見ると、「なぜこんな難題を出すのか」という疑問も湧いてくる……。しかし、思考力入試を取り仕切る教員は、「頭のなかにある考えをなかなか言葉に落とし込めない子どもも、手を動かしブロックを使って表現するというプロセスを踏むことで、スムーズに言語化できる」と言う。

 実は、この入試で高得点を取って合格した生徒は同校の上位クラスに所属しているが、一般入試ではこのクラスには届かなかった。しかし、入学後は他の生徒に引けを取っていないという。通常の教科中心のテストでは引き出せない能力が、新タイプ入試なら引き出せるということなのかもしれない。

 また、できるだけ多様な資質を持った生徒を取りたいという狙いもあるだろう。実際、前述の2校では、新タイプ入試で入学した生徒は意欲が高く、一般入試で入った生徒と交ざることで授業にも活気が生まれるという。東大や京大が推薦入試を始めたのも同じ狙いだ。

 ここまで書いて、改めて「学力とは何か」「従来のテストで測られている能力は、ごく一面に過ぎなのではないか」という疑問が出てくる。これまで往々にして、受験を突破するためテストで点数をとれれば学力が高いと評価されてきた。しかし、実際にその枠内には収まらないが、思考力という物差しで測ったときに高いポテンシャルを持つ子どもがいる。新タイプ入試を実施する学校では、そんな潜在能力を持った子どもを見いだし、学内で育てていこうという意図が感じられる。

聖学院中学校の難関思考力入試の様子

これからは入試の世界でも、多様性がキーワードになる

 
 2020年度入試からセンター入試に変わって大学入学共通テストが始まる。結局それほど変わらないのではという予測も飛び交うが、筆者は新学習指導要領で学ぶ生徒が大学受験をする2024年以降に、大学入試も本格的に変わるのではないかと思っている。むしろ、変わらなければこの国の未来は危ういとも考えている。
 
 少子化に伴って、今後ますます教育業界も生徒の争奪戦が激しくなる。ひとつの流れが低学年からの通塾。塾難民という言葉も出てくるくらい、難関中学合格を目指して低学年から子どもを塾にいれる家庭がある一方で、習い事もやめず、塾通いで消耗させず、なおかつ良い環境を与えるために私学に通わせたいと考える親たちも出てきた。

 学校選択に関しても、大学進学実績や偏差値を物差しとする従来の価値観で、難関校を目指す層。偏差値は見つつも、大学進学実績ではなくアクティブラーニングなどを取り入れた21世紀スキルの育成を重視する学校を選択する層、偏差値や進学実績ではなく、人間力の養成のための豊かな環境を重視する層と、親の価値観が多様になってきていると感じる。

 従来の知識レベルを問う問題で測れるのは、人の能力のごく一面でしかない。国内においても外国人労働力なしには経済が成り立たないといわれている今、多様性は今後の社会の重要なキーワードだと思うが、その価値観が広がるためには、まず人を多面的に捉える視点と学校教育のなかで、子どもたちの能力を多面的に測る指標が不可欠ではないだろうか。今、日本の教育が、画一的ではなく個々の子どもに応じた多様な扉を開くことができるかどうかが問われている。

 中学受験で広がる新タイプ入試は、これまでの学力テストでは拾えなかった、新しい価値観を持った層をすくい取り、多様な能力を持った子どもたちを受け入れるひとつの突破口になるのかもしれない。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表  
教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。
オフィシャルサイト
マザークエスト

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