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対象は全世帯の1%、消費増税による「大学無償化」の矛盾…大卒者のみを勝ち組に固定化

文=吉川徹/大阪大学人間科学部教授
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波及効果は見込めない

 確かにこの政策で、高等教育への公的支出が増えるので、外形上は公教育を重視したかたちにはなる。しかしこの7600億円は、市場を経由することなく、国庫から私立大学などの高等教育機関の財政を直接潤すしくみになっている。フードスタンプが食品の流通や消費を促進し、市場を活性化する作用をもつのとは大きく異なっている。

 もちろん長期的にみれば日本の労働力の質を高めるが、当面は新たな雇用を生むわけでもない。それどころか、高卒進学者が順当に増えれば、今でも不足が懸念されている20歳前後の若年成人労働力はさらに減少する。安倍政権としては、ちょうどその分を並行して進めている外国人労働者の受け入れ拡大により埋めることになるので、帳尻は合うことになるのかもしれないが、本質的な成果も、波及効果も大きくは見込めない。私はミクロ経済学・労働経済学の専門家ではないが、これらは素人でもわかることだ。

むしろ新たな格差を生じる面も

 食料品の購入と大卒学歴取得を比較するのはナンセンスかもしれないが、「消えモノ」のフードスタンプと違って、学歴は生涯にわたって利用できる。それが20世紀生まれの人びとには高額であったのに、ちょうど今年受験する21世紀生まれの世代のからは、急に安く手に入るようになるというのだ。高等教育進学の経済的な障壁が下がることはよいことなのだが、全ての世代がそのメリットを受けるには、長く継続することが必要だ。国民の1%に対する支援は40年ほど続けなければ、国民の4割に行き渡った状態にはならない。

 当面は生産年齢人口のなかに、学費が高かった世代と、大学に安く行けた世代の間の新たな格差が生じる。とくに、これまでも時代のめぐりあわせが悪かったロスジェネ世代の社会人たちには、少なからぬ不公平感が生じるだろう。この急な制度改正が、民主党政権時代の子ども手当のように、思い付きで何年かやってみたがやめた、というなりゆきになるのは最悪で、大きな混乱を生じるはずだ。

当事者のニーズは誰も知らない

 では、支援を望んでいるはずの若者たちは、この青天の霹靂に歓喜しているのか。私は、これが国民が待ち望んでいた政策であるのかということについても、疑問符が付くとみている。次のことを再考してみよう。

 まず、家庭の経済的な事情により進学を断念しようとしている高校3年生は、いったいどれくらいいるのだろうか? そしてそのうちのどれだけの数が「大学無償化」の法案通過を受けて、「うちは住民税非課税世帯?」と親に家計の状態を尋ね、それなら進学しようと進路変更するだろうか?

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