ビジネスジャーナル > ライフニュース > 堀ちえみさん、食道がんの恐ろしさ  > 2ページ目
NEW

堀ちえみさん“二重がん”、食道がんの恐ろしさ…進行するまで無症状、注意すべき症状と原因

文=上昌広/医療ガバナンス研究所理事長
【この記事のキーワード】, ,

 私が医学生だった1980年代末から90年代にかけて食道がんは不治の病の典型だった。ところが近年、診断法や治療法の研究が進み、早期に診断されれば治癒が期待できるようになった。

 メディア報道によれば、さんの病気はステージ1だ。がん細胞は食道の粘膜は貫通しているが、その下の粘膜下層に留まっている。外部の筋層に到達していないため、基本的に転移はない。これまでの検査でも周辺のリンパ節や遠隔臓器に転移は確認されていない。この場合、内視鏡で病変は切除できる。放射線や抗がん剤治療も不要だ。

 予後は良好だ。全国がんセンター協議会が2007~09年に診断された患者さんを対象としたフォローアップの調査を行ったところ、ステージ1の1290人の患者さんの5年生存率は86.3%だった。この調査から10年が経過し、食道がんの治療法はさらに進んだ。長期生存率はますます高まっているだろう。堀さんの食道がんは治癒する可能性が高い。

 堀さんにとって不幸中の幸いだったのは、早期の段階で食道がんを見つけることができたことだ。これは舌がんの治療を受ける際に、内視鏡検査を行ったからだ。このことは示唆に富む。食道がんは進行するまで無症状なのだ。進行すると、胸部の違和感、飲食物のつかえ、背中の痛み、嗄声、さらに体重減少が出現するが、この状態では、たとえ診断されても治癒は期待しにくい。

 早期に発見するには、定期的に内視鏡などでがん検診を受けるしかないが、食道がん検診については、どのような人が、どのような頻度で受けるべきか、いまだ結論は出ていない。

 では、食道がんは、どのような人に生じやすいのだろう。危険因子は喫煙と飲酒だ。特に飲酒については、我が国から興味深い研究成果が報告されている。松田浩一・東京大学大学院新領域創成科学研究科教授らの報告によると、2つの遺伝子の多型が関係している。

 それはアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素だ。前者はアルコールを分解しアセトアルデヒドに変換する。このアセトアルデヒドこそ、顔を火照らせたり、頭痛を引き起こす物質で、発がん性がある。後者はアセトアルデヒドを無害な酢酸に分解する。

 アルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素には多型が存在する。アルコール脱水素酵素はお酒の嗜好を決めている酵素といわれており、この活性が弱い人はアセトアルデヒドへの変換が遅れ、飲み過ぎてしまう傾向がある。一方、アセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱い人はアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすく、お酒が弱い人とされる。

 松田教授たちは、飲酒、喫煙、それからこの2つの酵素がハイリスクの多型の場合、そうでない人と比べて食道がんのリスクが189倍も高まることを報告した

 食道がんを予防するにはどうすればいいか。食道がんに限らず、禁煙に反対する人はいないだろう。

 問題はお酒だ。酒は百薬の長という言葉もある。どの程度まで飲酒するかは、ケースバイケースで議論すべきだ。今回ご紹介したようなゲノム研究が進み、飲酒量のコントロールや検診の頻度まで、個別化対応が可能になる日が来るかもしれない。
(文=上昌広/医療ガバナンス研究所理事長)

堀ちえみさん“二重がん”、食道がんの恐ろしさ…進行するまで無症状、注意すべき症状と原因のページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!