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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

脂っこい食事をする高齢者は長寿…平均的食事の日本人は、糖質制限は必要なし

文=熊谷修/一般社団法人全国食支援活動協力会理事

脂質栄養、年を取ればとるほど必要度が次第に高まる

 さて、筆者らのシニア集団の興味深い分析データを紹介しよう。この分析はシニアの老化速度と脂肪を摂取する食習慣をみたものである。地域シニアの要介護を防ぐ健康づくり活動で収集された、日本では稀有な調査データである(秋田県大仙市研究から)。平均年齢73歳の1254名を6年間追跡している。追跡期間中に235名死亡している。この1週間の食事を思い出し、回答を求めるアンケートで、油脂類の摂取頻度を4つのグループに分けて総死亡リスクを比較してみた。

 油脂類(油脂を使った主菜や副菜なども含む)を「ほぼ毎日食べる」と回答した群を基準としたとき、「2日に1回」の群は12%、「週に1~2回」の群は23%、「ほとんど食べない」群は39%総死亡リスクが高いという結果が出た。この数値は性別、年齢の影響を加味酌量している。統計学的に有意味な水準には達しているものではないが、筆者はシニアにとって老化を遅らせるためには脂っこい食事を摂ることが大切なことを薄らと浮かび上がらせているデータと解釈している。やはり脂っこい食事を好むシニアは老化が遅いようだ。

 ミドルからシニアに移行する40歳から70歳までの30年間に、食物摂取量は個人差が大きいものの概ね10~25%減少する。しかし地域で元気に暮らし、要介護を防ぐために求められるエネルギー量は、ほとんど変わらない。脂肪はたんぱく質の2倍以上のエネルギーを発出し、コンパクトな量でも効率よいエネルギー源となる。たんぱく質栄養とともに脂質栄養は、年を取ればとるほどその必要度が高まっていく特徴的な栄養素である。

 脂質に関しては多価不飽和脂肪酸の血液サラサラ効果などに目が向かいがちだ。多価不飽和脂肪酸は血液凝固因子の働きを抑制するため、出血傾向を促す。魚類、海獣を多食するイヌイットの疫学研究で判明していることである。まずは脂肪の種類にこだわらず脂っこい主菜を食べる習慣があるのかどうか、普段の食事を俯瞰評価してみてはどうだろう。筆者は「脂肪の種類は一切考えず1日1食を脂っこい主菜にする」ことを推奨している。

糖質制限食の良否

 最近、講演で糖質の問題がよく質問される。話題の糖質制限食の良否について判断意見を求めているようである。先述のランセットに掲載された論文には糖質(炭水化物、Carbohydrates)についても触れているので併せてお話しようと思う。

 同じく文化、経済要因がうまく調整された集団での調査で算出されたものだ。炭水化物エネルギー比(総エネルギー摂取量のうち炭水化物から摂るエネルギーの割合)が65%程度のグループの総死亡リスクは、今流行の炭水化物エネルギー比を40%程度にした糖質制限食グループとまったく同じ水準であることが示されている。総死亡リスクが上昇し始めるのは炭水化物エネルギー比が65%を超えるあたりからである。平成28年国民健康栄養調査による日本人の炭水化物エネルギー比の平均値は57.8%だ。日本人の平均的な食事を営んでいれば糖質制限食などする必要がない。流行りものには注意が必要だ。
(文=熊谷修/一般社団法人全国食支援活動協力会理事)

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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