NEW
連載
篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

『君が代』、“国歌”は誤訳?特殊なメロディーの秘密

文=篠崎靖男/指揮者
【この記事のキーワード】

, , ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ちなみに、現在のヨーロッパでも、王室が存在する国々の国歌では、国王が歌詞の中に含まれていることが多くあります。前出の英国をはじめ、オランダ、ベルギーも国王関連の言葉が含まれています。変わったところでは、同じく王室が存在するスペインの国歌には、なんと歌詞がありません。そのため、「ラーラー」と歌うしかないのですが、曲名は『国王行進曲』という勇ましい名前がつけられています。つまり、これらの国々では、ロイヤル・ファミリーは誇るべき存在として、国の威信をアピールしているのです。

「君が代」の素晴らしさを再確認

『君が代』の歌詞は、世界の国歌のなかで一番古いといわれています。出典は、醍醐天皇の勅命により905年に奏上された『古今和歌集』の中の祝賀歌です。そこでは、「君」は天皇陛下を指すものではなく、「あなた」という程度の意味で、「あなたの長寿を祝います」という内容でしたが、その後、武家が台頭してくるのに伴い、天皇勅選の賀歌の中の「君」は天皇陛下を指すようになってきたようです。これは、京都の皇室や貴族が、武家社会への対抗として天皇を押し出していく必要が出てきたからではないかと考えられており、江戸中期には「君が代」の「君」は、すでに天皇陛下を指していたようです。

 そんななかで明治維新を迎えて、日本は天皇を中心とした国家づくりへと大転換したわけですから、『君が代』の「君」は天皇陛下をイメージしていたと考えるほうが自然です。

 そんな『君が代』について、僕は子供の頃から歌うたびに西洋のメロディーとは違った独特な雰囲気を感じていました。それは、構成する音を考えるとよくわかります。皆さんは小学校の頃に音楽の授業で習われたと思いますが、メロディーの基本は“ドレミファソラシ”という7つの音で音階がつくられます。ここに臨時記号によって、音に特殊な変化をつけるのが作曲家の腕の見せ所ですが、基本的には7つの音です。

 しかし、『君が代』は“ドレミソラ”の5つしかないのです。実際には、一度だけ“シ”の音が出てきますが、このたった一音が現れる場所だけが、例外的に「君が代」を西洋風にしているのです。実は、5音の音階は、古来の日本音楽のメロディーのつくり方です。フェントンが急いで作曲した「君が代」のメロディーが不評で作曲し直すにあたり、日本人作曲家の林廣守が雅楽の旋律を取り入れたからなのです。

関連記事