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松本典久「山手線各駅停車」

ビール「エビス」から生まれた恵比寿駅の秘密…貨物駅からお洒落な街の駅へ変貌の歴史

文=松本典久/鉄道ジャーナリスト

地名の由来もビールのエビス

 当初、貨物扱いしかしていなかったが、やがて旅客の需要も見込める状況になり、1906(明治39)年10月30日、旅客営業も開始した。駅名は製品のブランド名に合わせて「恵比寿」となった。国鉄の資料ではこの旅客営業開始日を恵比寿駅開業日としており、JR東日本もこれを踏襲している。

 日本麦酒醸造会社の醸造所がつくられた場所は、明治時代は下渋谷と呼ばれていた場所で、恵比寿という地名はなかった。実は地名もこのビールのブランド名から生まれたのだ。

 まず、1928(昭和3)年に工場のそばに「恵比寿通一丁目」「恵比寿通二丁目」という地名が誕生した。そして1966(昭和41)年には住居表示の改正が実施され、恵比寿通一丁目・二丁目をはじめ、山下町・新橋町・豊沢町・伊達町・景丘町が恵比寿一丁目~四丁目となり、以後、恵比寿という地名が広く知られるようになったのだ。

ビール「エビス」から生まれた恵比寿駅の秘密…貨物駅からお洒落な街の駅へ変貌の歴史の画像5恵比寿神社

 恵比寿駅西口から徒歩2~3分には「恵比寿神社」がある。これは地名を名のった氏神様というわけではなく、えびす神社の総本社として知られる兵庫県の西宮神社から分霊を受け、1959(昭和34)年に建立されたものだ。つまりこれもエビスビールにあやかって招いたと言われている。

 ちなみに恵比寿駅西口に待ち合わせスポットとして定番の「えびす像」があるが、これは1975(昭和50)年に地元の有志によって建立されたもの。この像には、恵比寿ビールに始まる恵比寿の地名、恵比寿神社など、この地に刻まれた歴史への思いが込められているのだ。

ビール「エビス」から生まれた恵比寿駅の秘密…貨物駅からお洒落な街の駅へ変貌の歴史の画像6

 なお、「恵比寿ビール」を開発した日本麦酒醸造は、1906(明治39)年に大日本麦酒、1943(昭和18)年に日本麦酒、1964(昭和39)年にサッポロビールと体制や社名を変更しているが、恵比寿工場の操業は近年まで続けられてきた。そして1988(昭和63)年、さらなる工場拡大のため、千葉県に移転することになった。これにより工場跡地は再開発され、1994(平成6)年「恵比寿ガーデンプレイス」となっているが、その一角にはこうした歴史やビールの製造などを紹介する「恵比寿麦酒記念館」がある。

ビール「エビス」から生まれた恵比寿駅の秘密…貨物駅からお洒落な街の駅へ変貌の歴史の画像7ガーデンプレイスに続く動く歩道

 また、移転直前の1985(昭和60)年には貨物駅の一部に客車を留置、車内でエビスビールが飲める「ビヤステーション恵比寿」として営業したこともある。汽車旅気分のビアホールとして、多くの利用者に愛された。これは恵比寿ガーデンプレイスで継続しているが、再開発の際、残念ながら客車などの設備は解体され、当時の面影はない。

 ちなみに恵比寿の貨物駅が使われていた時代、ビールを運ぶ貨物列車は山手線と並行する通称「山手貨物線」で運転されていた。山手貨物線とは、明治末期、山手線の電車運転が始まり、列車本数も増えていくなか、線路を複々線化、電車の走る旅客線と貨物線を分離して大正時代につくられた路線だ。

埼京線も湘南新宿ラインも発着

 JRグループへの移行前の国鉄では、拡大していく首都圏の旅客需要に応じるため、大規模な改革をこうじている。そのひとつは山手貨物線の旅客利用だった。

 まず、山手貨物線に代わるルートとして武蔵野線を計画・建設、山手貨物線の貨物線としての負担を減らしていった。その上で旅客線として活用を進めていったのである。恵比寿貨物駅から貨物輸送が終わるのもこんな時代のことだった。

 山手貨物線は、1985(昭和60)年に赤羽~大宮間で運転を開始していた埼京線の延伸路線として活用されることになった。ただし、貨物線だったため、途中駅に旅客用ホームはない。その設置を進めながら1986(昭和61)年には新宿発着となり、さらに1996(平成8)年3月16日からは埼京線が恵比寿駅まで延伸してきた。ただし、それ以南の設備はまだ整備途上だったため、しばらくは恵比寿駅が埼京線の始発駅として運転されている。

ビール「エビス」から生まれた恵比寿駅の秘密…貨物駅からお洒落な街の駅へ変貌の歴史の画像8アトレ恵比寿店

 埼京線の発着が始まった翌年10月、JR東日本グループの「アトレ恵比寿店」が駅ビル内にオープンしている。そして、2001(平成13)年12月1日には湘南新宿ラインの運転が始まり、この時から恵比寿駅にも湘南新宿ラインの電車が発着するようになった。さらに翌年12月1日には埼京線が大崎駅まで延長された。

 こうして貨物駅から始まった恵比寿駅は、利便性を高めることで魅力的な街の玄関口として発展してきたのだ。
(文=松本典久/鉄道ジャーナリスト)

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