金曜深夜に放送されている『きのう何食べた?』(テレビ東京系)が反響を呼んでいる。
本作は、ゲイのカップルの日常を描いたグルメドラマ。法律事務所で働く弁護士の筧史朗(西島秀俊)は、仕事を定時に終えて近所のスーパーでお買い得の食材を吟味し、美味しい夕食の献立てを考えることが毎日の日課。同居している美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、史朗の料理をいつもうれしそうに食べる。シロさんとケンジが夕食を食べる姿を通して、2人の日常を淡々と追っていく。
原作は週刊漫画雑誌「モーニング」(講談社)にて月一で連載されている、よしながふみの同名漫画。脚本は、産婦人科の過酷な現実を描いたドラマ『透明なゆりかご』(NHK)が昨年、高い評価を受けた安達奈緒子。主演の西島秀俊、内野聖陽が原作漫画のイメージとぴったりだったことがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で反響を呼び、今クール一番の話題作となっている。
テレビ東京の無料動画配信サービス「ネットもテレ東」の初回見逃し配信数は、配信開始から5日で120万回と歴代最高を突破した。
BL&グルメドラマという魅力
本作のおもしろさは2つ。ひとつは、ゲイのカップルの日常を描いたBL(ボーイズラブ)だということ。昨年のドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)のヒット以降、「LGBTQ」の人々を主人公にした作品や同性愛を題材にしたドラマが増えている。
今クールも、ゲイの高校生を主人公にした青春ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)や、古田新太が演じるゲイで女装家の教師を主人公にした『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)が放送されており、この『きのう何食べた?』も、そういった流行の中で生まれたドラマだと言えるだろう。
もうひとつは、毎回シロさんがつくる晩ごはんが実に美味しそうなところ。食事の描写は、グルメドラマ『孤独のグルメ』をロングヒットさせているテレビ東京の深夜ドラマならではの見せ方だと言えるだろう。グルメドラマはテレ東を筆頭とする深夜ドラマにおけるヒットコンテンツのひとつとなっており、美味しそうな料理が劇中に登場するたびに“飯テロ”だとSNSで話題になることが定番化している。
『きのう何食べた?』の場合は、食材をスーパーで選んで調理する場面から見せていくので、美味しさがより倍増されている。グルメドラマに登場する料理は高額なぜいたく品ではなく、少し無理すれば手が届きそうな程良い距離感が大事なのだが、シロさんが月2万5000円の食費をやりくりしてつくる朝食と夕食は安価で栄養面のバランスも良さそうで、一度つくってみたくなる。
時代とドラマがよしながふみに追いついた?
BL、グルメモノに加えて、シロさんが弁護士だというリーガルドラマのテイストも揃っているため、ヒットして当然だろうと考える人も多いかもしれない。
しかし、原作漫画の連載がスタートしたのは2007年。今から12年も前である。『西洋骨董洋菓子店』(新書館)や『大奥』(白泉社)などで知られるよしながは、男性同士の恋愛を描いたBLからキャリアをスタートした女性漫画家だ。BLはもちろんのこと、食事というモチーフに対しても深いこだわりを持っており、作品の根底にあるのは地に足のついた生活感覚である。だから本作では、シロさんの仕事(弁護士)もゲイとしての恋愛も、食事と同列のこととして描かれる。