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遺族に7百万円請求も…孤独死の知られざるコストと、凄まじい死亡現場の実態

文=菅野久美子/ノンフィクション作家
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遺族に7百万円請求も…孤独死の知られざるコストと、凄まじい死亡現場の実態の画像1孤独死の事故現場(画像提供:武蔵シンクタンク株式会社)

 単身世帯が増加し、核家族化が進んだ超高齢社会の日本では、孤独死を完全に防止することは、不可能に近い。

 孤独死の発見が遅れると特に真夏の場合には、死体は凄まじい勢いで腐食し、黒い腐った体液が身体から染み出る。たとえば、フローリングの上で亡くなると、床がフニャフニャになるほどに体液が染み込み、蛆虫や蠅が大量発生する。そして、死臭がドアポストなどから共有部分である廊下などに拡散され、近隣住民や管理人が、孤独死の状況に気付き、やっと発見される。

 このような場合には、賃貸物件であれば保証人が、分譲物件の場合には相続人が、原状回復の責任を負うことになる。

 それでは、原状回復工事というのは、どれくらいの金額がかかるのか。

 拙著『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)で詳しく取り上げているが、特殊清掃は、通常の流れとして、なるべく中の荷物を処分し、亡くなった場所の修復と部屋全体の掃除をした上で、オゾン脱臭や薬剤などを使って、消臭の作業をしてリフォームをする。しかしその費用は、業者や亡くなった場所、季節によって、大きな開きがある。

 日本少額短期保険協会の「第3回孤独死現状レポート」によると、孤独死後の平均の原状回復費用は39万1541円。ゴミなどの残置物処理の平均費用20万1147円を合わせると、約60万円という計算になる。

 しかし、実際に孤独死現場を取材していると、その清掃費用に、数百万円もかかったというケースもざらにある。なぜこのような大金がかかってしまうのか。

 拙著にも登場した特殊清掃会社である武蔵シンクタンクの塩田卓也氏によると、賃貸物件は、特殊清掃だけではなく、フルリフォームを前提とした原状回復工事代金を請求される場合があるからだという。フルリフォームというのは部屋の中の造作部分をすべて解体して、スケルトンの状態にしてからすべて新しくすることで、簡単に言うと部屋の造作をすべてやり直すということである。

 塩田氏によると、賃貸物件のブランドである大手ハウスメーカーでは、貸主が指定した下請け業者による修理でなければ、原状回復したことにならないと、賃貸契約書に記載されている場合があるのだという。たとえば、畳を汚してしまった場合なども指定した畳業者でなければならなくなる。その理由としては、仕様の画一化という側面がある。ブランド化された物件は、設計段階からしっかりとした形や色などブランド指定の仕様の詳細が決められている。その通りにリフォームしなければならないことが、高額な請求金額につながるケースがあるというわけだ。

原状回復費用に700万円超も!

 塩田氏が経験した工事では、2LDKの鉄骨造り賃貸アパートにおけるフルリフォーム代金が、700万円超になった事例があった。故人はその部屋に7年住んでいて部屋の中で孤独死した。塩田氏は、部屋全体の経年劣化も考慮に入れ、特殊清掃と一部リフォームを見積もりしても70万円は超えないと予想していた。しかし、この物件がこの大手ハウスメーカーだったため、フルリフォームが必要になり、700万円もの高額な費用が遺族に請求されたのである。

 塩田氏は、天井や床下、壁の中の断熱材まですべて新しくする必要性があるのかと今でも疑念を抱いているという。たまたまその物件に住んでいた故人には、多額の資産があったために相続人が支払うことができたが、庶民がそのような大金を遺族が捻出するのは並大抵ではない。

 なお、塩田氏は、「通常、孤独死においてはフルリフォームまでの回復義務はなく、不動産会社などから高額請求があった場合、死臭などの臭気損害と床の張り直しまでの施工費を、弁護士などを挟んで交渉したほうが良い」とアドバイスしている。

 あまり知られてはいないが、孤独死のコストとして、遺族は数百万を超える請求をされるケースもあるという現実も頭に入れておいたほうが良いだろう。
(文=菅野久美子/ノンフィクション作家)

菅野久美子

菅野久美子

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。ノンフィクション作家。著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)『アダルト業界のすごいひと』(彩図社刊)『エッチな現場を覗いてきました!』(彩図社)がある。

Twitter:@ujimushipro

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