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セブン&アイ、またトップ電撃解任の悲喜劇…締め付けてきたFC加盟店の“反乱”

文=編集部
セブン&アイ、またトップ電撃解任の悲喜劇…締め付けてきたFC加盟店の“反乱”の画像1セブンイレブン・ジャパンの永松文彦副社長(左)、セブン&アイHDの井阪隆一社長(写真:東洋経済/アフロ)

「社長の器でない人が社長になると、こういう悲喜劇が起こる」(関係者)

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)内で“天皇”と呼ばれた鈴木敏文元会長兼CEOの電撃辞任に際して、同社は中核事業子会社セブンイレブン・ジャパン社長に“ミニ敏文”こと古屋一樹氏(当時副社長)を据えざるを得なかった。

「敏文“天皇”という太陽が輝いていたからこそ、月(=古屋)は光を放っているように見えただけ。ワンマンの子飼いの役員に共通する『自分の頭で考えることができないリーダー』だった」(セブン&アイHD元役員)

 古屋氏をめぐっては2016年、セブン&アイHD会長だった鈴木氏がセブンイレブンの井阪隆一社長を退任させ、副社長だった古屋氏を社長に昇格させようした。ところが、唐突な人事に社外取締役が反発。鈴木氏の退任につながった。井阪氏がセブン&アイHD社長に就き、古いフランチャイズ(FC)加盟店オーナーとの結びつきが強い古屋氏がセブンイレブン社長になるという妥協が成立した。

<2>セブンイレブン社長は永松氏

 井阪社長の新体制が発足して3年。24時間営業をめぐる加盟店の乱の渦中であった4月8日、セブンイレブンの社長を交代。永松文彦副社長が社長に昇格し、古屋氏は代表権のない会長に祭り上げられた。4月4日の社長交代の記者会見に古屋氏は出席しなかった。井阪氏は「24時間の営業体制をどうするかの問題というより、コミュニケーションの目詰まりが組織の問題としてあった。1人の社長が情報を吸い上げるのは負荷が大きい。永松が加わることで、社内の情報を吸い上げ、素早く戦略を立案したい」と説明した。

「まぜ今のタイミングなのか」との記者団の質問に、井阪氏は「昨年から相談をして、このような結果になった。今回の件は異例な交代ではない」とした。

 世耕弘成・経済産業相は4月5日午前、コンビニエンスストア大手の経営トップと経産省内で意見交換をした。セブンイレブンは8日付けで退任する古屋氏と永松氏の2人が出席したが、まもなく退任する社長が経産相との意見交換の席に出るのには違和感があった。「“社長解任”がよほど悔しかったのだろう」(前出セブン&アイHD元役員)と受け止められている。

 世耕経産相が「人手不足など、コンビニ加盟店が抱える課題に対する行動計画を策定するよう」要請。日本フランチャイズチェーン協会の中山勇会長(ファミリーマート会長)が「重く受け止めている」と述べ、対応を急ぐ考えを示した。セブンイレブン、ファミリマート、ローソンなど8社の経営トップが顔を揃えた。

 世耕経産相がコンビニのトップを招集し、人手不足の問題や長時間労働について意見を述べ、各社に人手不足を是正する計画の策定を求めた“パフォーマンス”に関して、「法的根拠のない、任意の行政指導に当たらないのか」(小売業界関係者)といった冷ややかな見方もある。

社長交代の引き金になった24時間営業問題

 24時間営業問題が社長交代劇の直接な引き金になったのは間違いないとみられている。19年2月、東大阪市のFC店オーナーが人手不足の窮状を訴え営業時間を短縮し、本部側が契約違反の状態だと指摘した。経営陣は24時間営業の見直しを認めない強硬姿勢で臨んだ。

 だが、オーナー側の強い反発や「働き方改革の流れに逆行する」といった世論の批判もあり、3月から直営店10店で時短営業の実証実験を始めた。しかし、FC店から「直営店10店のみでの実験は不公平」と指摘されると、FC店を実験の対象に加えると軌道修正した。

 こうした一連の対応は、古屋氏が主導した。古屋氏は営業部門が長く、24時間営業の堅持に思い入れが強かった。

「古屋氏も超ワンマンで、聞く耳をもたない。24時間営業に柔軟に対応する心の余裕はなかった」(前出セブン&アイHD元役員)。

 古屋氏解任劇の背景には、古屋氏が現場の生の情報を井阪氏などセブン&アイHDの経営トップに上げず、情報を握り潰したことに対する苛立ちがあったようだ。東大阪市のFC店オーナーが営業時間を短縮した際、本部側は契約違反だと高飛車に突っぱねた。井阪氏は報道直前に事態を把握したが、すでにオーナー側のメディアを使った情報発信で「強い本部に追い詰められる弱いオーナー」という構図が出来上がってしまった。

 現場を掌握できていない古屋氏と“古屋親衛隊”の能力不足が浮き彫りになった。井阪氏などセブン&アイHDの経営陣は一部を除き、古屋体制への危機感を強めていた。

「FC店の不満が高まっているにもかかわらず、古屋氏はマスコミの取材に『24時間営業だからコンビニは成長できた』と繰り返すのみで、オーナー側の不信の声が渦巻いていた」(同)

「鈴木氏の薫陶を受けていた古屋氏のほうが、井阪氏より社内の評価は高かった。だから、井阪氏にとって古屋氏は目の上のたんこぶだった。24時間営業問題への対応の拙さを理由に、首を切るちょうどいいタイミングと考えたのだろう。もともと古屋氏が残っていたのは、鈴木氏が辞めた時にFC店オーナーたちの不安を和らげるための緩衝剤の役割があったから。だが、古屋氏はオーナーたちの不満をうまく調整できなかった。もはやお役御免ということだ」(外資系証券会社の流通担当アナリスト)

 また、「古屋氏のやり方は時流に合わなくなっていた」(関係者)との厳しい見方もある。

24時間営業問題は今後もくすぶり続ける

 4月4日の記者会見で、永松氏は「営業時間に関しては、個別の店舗に合わせて柔軟に対応していく」とした。新規店舗向けが6割を占めた設備投資を既存店6割とすると述べ、古屋時代の拡大一辺倒の路線からの決別を宣言した。「役員がオーナーと直接対話する機会をつくる」とし、上意下達の指導方針を180度転換する。加盟店を厳しく指導して組織を引き締めてきた手法だけでは、もはや、この苦況を乗り切れないとの冷静な判断がある。

「古屋氏はオペレーション本部(FC店指導員を束ねる部門)の経験者だから、24時間営業問題の難しさはわかっている。松永氏はオペレーション本部の経験はあるが、人事や労務畑が長いので、現場のことがあまりわかっていない。オペレーション部門出身でない井阪氏も現場の空気がわかっていない。

 本部にとっては24時間営業のほうが配送は効率的。夜に店を閉めたら配送にロスが出る。だから、できるだけ緩やかに転換したいと思っている。しかし、加盟店の現場はそんな穏やかなことを言っていられない。人手不足が深刻。人件費も急増しており、オーナーにとって待ったなしの状況なのだ」(前出アナリスト)

 井阪氏は会見で「選択制を採用するわけではない。24時間営業を続けるかどうかをオーナーが選べる制度の導入は考えていない」と明言し、営業時間の選択制の導入は否定した。

セブンイレブンの国内加盟店は2万店を超えるが、営業時間の短縮を求めているのは80店。こんなに少ないのは、コンビニのオーナーが本部を恐がっている証左」(関係者)

 時短の実証営業を始めたが、基本的には24時間営業を維持する方向だ。どこで折り合いをつけるかが注目される。本部とFC店オーナーの収入に直結する問題だけに、ハンドリングを一つ間違えると、次は井阪氏の進退問題になりかねない。

 井阪氏は鈴木氏と敵対するなかで、創業家である伊藤雅俊・セブン&アイHD名誉会長に近づいて今の地位を得た。伊藤氏は息子の伊藤順朗・取締役常務執行役員を社長にしたいと考え、井阪氏にその道筋をつけてもらいたい。創業家を後ろ盾に、井阪氏は8つ年上の古屋氏を切った。自らの体制を磐石にする狙いがあることだけは確かだ。

時短を容認

 4月25日、東京都内で記者会見した永松氏は営業時間の短縮について「最終判断はFC店のオーナーに委ねる。24時間営業をやめるといわれたら拒絶しない」と述べ、一律に24時間営業を求める姿勢からの方向転換を鮮明にした。同日発表した店主らの負担軽減に向けた行動計画では、24時間営業について「個店ごとに柔軟な運営のあり方を模索する」とした。営業時間の短縮を希望する店主に、2019年度内に一部店舗で実施している営業時間短縮の実証実験の結果を開示することを行動計画に盛り込んだ。

 本社役員らがFC店を訪問し、店主とのコミュニケーションを強化する。セルフレジの導入やキャッシュレス決済を促進し人手不足解消につなげるとした。2019年度はこうした既存店への支援に1200億円を充てる。
(文=編集部)

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