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木下隆之「クルマ激辛定食」

老舗の自動車部品メーカー「molten」開発のサッカーボールが、欧州リーグ公式球になった理由

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UEFAヨーロッパリーグ公式球「UEL 2018-19 GS MD2 matchball2」

 サッカーボールはなぜ正六角形と正五角形でできているのか。理由はおそらく、発祥当時に遡る。平面の革を貼り合わせ、球形にもっとも近くなるように多面体を求めたら、三十二面体のこの形になったのだろう。

 ちなみに、正三角形を20枚貼り合わせて球形に似た正二十面体をこしらえると、それだけではドゲトゲと角のある異物な球形になり、芝生をコロコロと転がるとは思えない。そこで、その正二十面体の尖った頂点をハサミでチョキンと切り落とす。すると、正六角形と正五角形を貼り合わせた三十二面体になる。「サッカーボール=三十二面体」なのは、そうすることで平面の組み合わせを球形にするためだ。

 サッカーボールはまったくの球形が理想的なように思われるのに、実は少々いびつな三十二面体である。それでも正しい球形のような転がり方をするのはなぜか。サッカーボールを提供するメーカーの高い技術力が、それを成立させているのである。

 昨年、UEFAヨーロッパリーグの公式球に、日本の老舗ブランド「モルテン」が選ばれた。ヨーロッパ55カ国、180以上のプロチームが出場する大会で、モルテンのボールが扱われることになった。実際に「molten」の文字を目にした方も多いことだろう。かくいう僕も、「molten」のロゴだけは意識の裏側に刻まれていた。

UEFAヨーロッパリーグの試合

 実はこの「molten」を開発する株式会社モルテン(広島)が、自動車部品の老舗だと知ったのは最近のことだ。特にゴムや樹脂を得意とする。エンジンやシャシーなどに組み込まれているそうだ。ピラーやアンダーカバー、ハーネス系のほか、ストラットマウントやトレーリングブッシュなどにもモルテン製が使われているというのだ。地政学的にマツダへの供給が多い。

 先日、僕はサーキットに視察に来ていたモルテン関係者に声を掛け、サッカーボールのモルテンが、なぜサーキットに来て、クルマが走行する様子に目を光らせているのかを問いただして事情を知ったのだ。

「我々が手掛けているサスペンション系のゴム製品が、どれほど走りに影響するのかを調査しているのです」(モルテン担当者)

 思わぬところで、サッカーボールのモルテンが自動車製作を手掛けていることを知った。

モルテンの技術力がクルマに生かされる

モルテンの製品「Z7A0059」

 僕はこれまで多くのマシンの開発に携わってきたから、ゴムブッシュの重要性は深く理解しているつもりだ。その身からすれば、モルテン関係者の調査する姿勢は応援したくなる。

 そして、同時に安心した。モルテンのサッカーボールの歴史は長い。1961年に生産を開始したというからキャリアは長い。しかも、あの正三角形を20枚貼り合わせて球形に似た正二十面体の頂点をカットしてこしらえた三十二面体を、真球のごとくコロコロと転がすには高い技術が求められるはず。

「サッカーボールの空気圧を調整する『中空体技術』や、ゴムや樹脂の高分子素材をコントロールする『高分子化学』が重要です」(同)

モルテン「ペレーダ5000芝用」

 そう言うように、モルテンの技術力の蓄積は多い。そうでなければ、UEFAヨーロッパリーグの公認になるわけがない。その技術がクルマにも生かされていることに安心したのである。

 ヨーロッパのトッププレーヤーが蹴るサッカーボールと、我々がドライブするクルマの技術に共通項があることは喜ばしい。これからUEFAヨーロッパリーグを観戦する楽しみが増えるような気がする。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員
「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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