NEW
相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

「自己実現」思想に破壊される新入社員たち…「この仕事は自分に向いていない」の根本的間違い

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
【この記事のキーワード】, ,

自己実現」思想のまやかし

 いつの頃からか、「自分らしく生きなさい」とか、「やりたいことを見つけなさい」とか、「自分を活かせる道を探しなさい」など、「自己実現を目指しなさい」というメッセージが若者に刷り込まれるようになった。そもそもが、「自己実現」の意味を誤解していることから始まっているのだが、その点は後段に述べることとし、しばらくは一般に流布している、誤解された「自己実現」について語ることとする。

 この誤解された「自己実現」の場合、その中身が曖昧ということがまずある。実現されるべき自己とは、どのようなものか。どのような状態が実現できれば、自己が実現されたことになるのか。自己が実現された状態の具体的なイメージがないまま、漠然と「何か違う」と思っているにすぎないのだ。

「自分に正直でありたい」という言葉は自己実現の思想を象徴するものとしてたびたび聞かれる。それ自体、否定されるべきことではない。しかし、取り違えると大変なことになる。「心からやりたいと思えない仕事は続けられない」となってしまえば、やりたいことだけで成立する仕事はないので、できる仕事はなくなってしまう。仕事は当然ながら、やりたくないことのほうが多い。楽しいことよりも、大変なこと、辛いことのほうが何倍も多い。そうした状況で、「これは私が望んでいた仕事ではない」と除外してしまえば、すべての仕事に適応できなくなってしまう。

 たとえ向いている仕事であっても、苦労なく楽しくできるわけではない。にもかかわらず、どこかに自分にぴったりの仕事があって、さほどの苦労もなく「自己実現」が果たせるのではないかとの思い違いがあるのではないだろうか。こうした考えに取り付かれている人はちょっとした苦労があると、「この仕事は自分には向いていない」と言う。苦労なくできる仕事などないという当たり前の前提を、まずは受容しておく必要がある。むしろ、そうした度重なる苦労にも耐えられる仕事が向いているともいえる。そういう点からすれば、「どんな苦労ならば耐えられるだろうか」と考えるほうが、はるかに現実的ではないだろうか。

理念なき企業が「自己実現」を助長する

 企業の側も、人材マネジメント上、短期的かつ個人的な方向性を強めているということもある。長期的に雇用を維持できないことに対するリスクヘッジの面も見え隠れする。なかには、「当社は社員の自己実現を支援します」などと謳っている会社すらある。私はそうした会社には何かしら胡散臭さを感じてしまう。それは一見耳障りはよく、社員を大切にしている風ではあるが、実際は理念なき企業の典型のようにも思えるのだ。企業は互助会ではないので、社員の自己実現を支援することを目的として設立されたわけではない。

RANKING

17:30更新
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合