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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

「自己実現」思想に破壊される新入社員たち…「この仕事は自分に向いていない」の根本的間違い

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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 企業は、社会へのなんらかの貢献を目的としており、それを実現するために社員を雇用している。会社としてこういうことをやっていきたいので、賛同する人は力を貸してください、というのが本来のあり方だ。よって、企業は企業として、何をやりたいのかを強く打ち出すべきである。そうでなければ、社員も会社を誇りに思うことはできないであろう。そういう会社が「社員を大切にします」と言ったところで、社員を幸せにできようはずはないのだ。 

自己実現」の本当の意味

 さて、「自己実現」の本来の意味だが、この言葉は、モチベーション理論の一つである欲求理論の代表格としてよく知られる、「マズローの欲求段階説」の中にある言葉である。マズローは、自己実現を「人がそうでありうるものであらねばならない」と述べており、人間としての完成形をイメージしている。自己実現の中には、「他者との健全な関係性」や「他者の受容」など、自己のみならず他者の視点も含まれる。

「欲求段階説」は、生理的欲求や安全の欲求などの低次の欲求が満たされると、高次の欲求が生じるという考え方である。北九州市立大学准教授の山下剛氏は、「低次の欲求が満たされることで、他者に目を向けることができる」とし、「現状の事実に対して、私利に囚われない、より偏りの少ない客観的な認識が可能となってくるし、そのような認識に立てば、自分のためであると同時に他人のためでもある統合的な意思決定の可能性が開けてくる」と述べている(北九州市立大学『商経論集』第53巻,2018年3月)。

 このように、現在日本社会に蔓延している、自己中心性を強調したかたちでの「自己実現」は、本来の「自己実現」ではない。単に言葉が勝手に独り歩きをした結果である。元甲南大学教授の杉村芳美氏が述べていたように、「自己実現」ではなく、「自己成長」という言葉に訳されていたら、だいぶ違っていたのではないだろうか。「実現」という言葉は、結果を想起させる。「苦労せずに何かうまく実現しはしないか」「実現しないのは、選んでいる道が違っているからではないのか」との発想をしがちである。「自己成長」という言葉であれば、プロセスに目が向き、苦労しなければならないことも自明となると思われる。

頭の中で連呼している問いかけを変える

 誤った「自己実現」思想から逃れるためには、自分の中で連呼している問いかけを修正するのが早道だ。「自分は何がしたいのだろうか?」「自分には何が向いているのだろうか?」といった問いかけは捨て去るべきだ。それらの問いかけを続けている限り、答えのない中で堂々巡りをする可能性が高い。いわれのない不安や焦りの元にもなる。それと共に、自己に意識を集中させてしまうことになり、周囲との関係性を軽視する方向にさえ向かいかねない。

 それらの問いかけに代えて、「自分は他者(社会)のために何ができるだろうか?」と問いかけてはどうだろうか。それにより、正しい自己認識が芽生え、マズローが唱えた本来の「自己実現」へと近づいていくと考えられるのだ。
(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

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