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「元AV女優・森下くるみ×法社会学者・河合幹雄対談」第1回

私の出演したAVは消せるのか?文筆家・森下くるみが語る「契約書もなかった現役時代」

構成=松島 拡
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私の出演したAVは消せるのか?文筆家・森下くるみが語る「契約書もなかった現役時代」の画像42017年10月に設立された「AV人権倫理機構」公式サイト

現役時代、一切交わされなかった契約書 今は契約締結時のビデオ撮影を義務化

 二村ヒトシ監督といえば、森下氏の所属したドグマの設立当初から看板監督として数多くの作品を世に送り出した、森下氏のAV女優時代を語る上で欠かせない人物だ。近年は業界の重鎮のひとりとして、『僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに』(2017年、角川書店)といった恋愛関連書を上梓するなど、多方面で活躍している。

森下くるみ 二村監督が、「ネットで検索すれば、AV人権倫理機構のウェブサイト内にある販売・配信停止申請のページが出てくるから、制度の概要や申請の方法を調べて考えてみれば?」と。そのひとことは大きかったです。

河合幹雄 なるほど。ただ、いくらAV人権倫理機構のウェブサイトに「発売から5年以上経過したAV作品については、出演女優が要請すれば販売・配信を停止できる」と書かれていても、最初はあまり信用できなかったのではありませんか? この手の第三者機関って、主張は立派でも、結局は業界側に味方して、その権益を守ることしかしなかったりするケースが多いですしね(笑)。

森下くるみ いえ、二村監督にアドバイスされたのもあって、信頼性についてはまったく疑っていなかったです。ただ、それとは別の不安はありました。というのも私は現役時代、契約書をメーカーやプロダクションと1枚も交わしたことがありませんでした。だから、申請しても通るのか、正当に販売停止できるものなのかと半信半疑でいましたね。

河合幹雄 現役当時、メーカーやプロダクションとは、基本的に紙でのやり取りは……。

森下くるみ 正式な書面を用意されたことはなかったです。それは私だけでなく、当時活動していた女優のほとんどがそうだったんじゃないかな。

河合幹雄 書類として見せられたのは、年齢確認のために必要な「出演承諾書」ぐらいだったかもしれませんね。メーカーやプロダクションは当時から、警察に捕まらないために出演者の年齢確認だけは一所懸命やっていましたから。森下さんも身分証を提示したはずですが、覚えていますか?

森下くるみ 20年以上前のことなのであまり記憶にないんですが、当時は運転免許証やパスポートを持っていなかったので、保険証を見せたはずです。

 AV人権倫理機構の定めた契約に関する規則では、「団体等間における個別の契約については、AV出演者等の自己決定権に配慮されて作られた本機構が定めた共通契約書を使用し、撮影時より相当期間前に、それをもって契約をすることとする」「メーカーやプロダクションは、出演者から契約書の写しの交付を求められた場合には、これに応じなくてはならない」とされた。AV業界において長年放置されてきた契約に関する基本的なルール、要するに「当事者間で契約書をきちんとやり取りしましょう」という、ビジネスにおいてはごく当たり前のシステムがようやく整備されたわけだ。

河合幹雄 われわれの整備したルールの中でもっとも重要なもののひとつと考えているのが、そうした契約に関する部分ですね。ルールがちゃんと守られているという証拠を残すために、今は撮影現場だけでなく、契約書を書くときもすべてビデオカメラで撮るよう義務化しました。

森下くるみ ああ、現役の現場スタッフから、最近は契約を交わす様子も撮影する決まりになった、という話を聞きました。

河合幹雄 要するに「取り調べの可視化」と一緒ですね。捜査機関による自白の強要などを防ぐため、取り調べを録音・録画してあとから検証できるようにするという。もちろん、契約書を当事者それぞれが1枚ずつ持つなんて、本来なら今さら決めるまでもない当たり前のことなんですけど。

森下くるみ でも当時、契約書を持っている女優なんていたのかな……。

河合幹雄 たとえ渡されても、誰かに見られればAVに出演していることがバレてしまうので、捨ててしまったりするケースも少なくなかったでしょう。そういう問題もあるので、今回のルールでは、渡されたあとで女優さん自身が破くのは自由だけど、メーカーやプロダクションが「本人がいらないというから渡さなかった」と言い訳するのはなしにしました。とにかく無理やりにでも渡してもらって、契約書すべてのコピーを、女優の人権を守るための非営利団体AVANに保管する。そのルールを徹底したんです。

私の出演したAVは消せるのか?文筆家・森下くるみが語る「契約書もなかった現役時代」の画像5文筆家・森下くるみ氏