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「元AV女優・森下くるみ×法社会学者・河合幹雄対談」第2回

AV出演強要問題と新制度設計…文筆家・森下くるみが出演作品の販売停止申請をしたワケ

構成=松島 拡
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AV出演強要問題と新制度設計…文筆家・森下くるみが出演作品の販売停止申請をしたワケの画像6AV人権倫理機構では数カ月に一度、「作品販売等停止」の手続き状況について、公式サイトにて公開している(写真は、2019年4月30日時点の最新データ

内密にしなければ意味がない停止申請 あえて公表した理由とは?

河合幹雄 女優さんからAV人権倫理機構に提出された作品販売等停止申請書の「販売等停止を希望する理由」という項目を見ると、やはり「婚約、結婚のため」「就職、転職のため」など、「身バレしたくない」という理由から申請を決めた人が多い。とすると本来なら、消すのも密かにやらないと意味がありません。ところが森下さんは、停止申請した事実を自ら公表された。その意味では非常に稀有な存在です。当事者が進んで情報を発信してくれるというのは、制度設計したわれわれにとってはありがたいことですが、どういう思いから公表に踏み切ったんですか?

森下くるみ ひとつは、第1回でもいったように、私が販売・配信停止を申請した一番の理由は、「無断で繰り返される二次利用への憤り」、そして「販売期間に制限がないことへの疑問」だということ。出演強要問題の根幹にあるような「作品を消してほしい」といった切実な思いとは少し意味が違うんですね。だから公表すること自体には抵抗はありませんでした。

 ただ、こういう制度ができたこと自体を知らない方がまだまだ多い気がします。だから私は純粋に、ようやくAV業界にも健全かつ正式なルールが整備されたことを伝えたかった。元女優の中にも、申請に時間がかかるんじゃないか、面倒なんじゃないかといったイメージを持っている方がいれば、正確な情報をつかんで欲しかったんです。

 それともうひとつ、私の場合は引退後も同じ名前で活動しているわけですから、作品販売等停止申請のことを仮に黙っていても、「あれ? メーカー・配信サイトから森下くるみの作品が全部消えてるけど、何かあったの?」といつか誰かが気づいて臆測が生じる可能性が高い。それなら自分から理由や心情を詳しく説明しておいたほうがいいだろうと思ったんです。

河合幹雄 「note」に書かれた森下さんの文章からもそんな印象を受けました。面倒なことになるぐらいなら先手を打つという、危機管理における模範的なやり方ですね(笑)。

森下くるみ 販売・配信停止を申請すること自体は、悪いことでもなんでもないはずです。なのに、あまり肯定的でない人もいます。「自己責任で出演したのに、自分だけの都合で消すなんて勝手だ」「結局金目当てだろう。販売・配信停止を申請するならギャラを返上しろ」みたいな。そういう誤解や疑念に対しての説明は、今後も必要になってくるのではないかと思っています。

河合幹雄 それは批判というより完全に難癖ですね。最近はやりの“自己責任論”もタチが悪い。本来の自己責任論は、おのれがおのれを厳しく律するためのものであって、「自分のやったことはすべて自分の責任だ」などと他者への不寛容を主張するものなどではない。近代政治思想の創始者ともいえるジャン=ジャック・ルソーが『エミール』などの教育論のなかで言っています。やはり創始者というのは偉大ですね(笑)。それで、周りの女優さんやAV業界の方からの反応はどうでしたか?

森下くるみ 今のところ元女優さんからはあまりないんですけど、「発言してくれてよかった」といってくれた現役女優さんは何人かいますね。AV女優の権利については皆、何かしらの考えをお持ちなので、販売等停止申請の件についても関心は高いんです。

河合幹雄 そうですか。申請の件数は確実に増えていますけどね。森下さんがSNSなどを通じて販売・配信停止を申請したことを表明し、「手続きしたら本当に消えたよ 」と書いてくださったことは、われわれにとって本当に大きかったんです。

 というのはどんな改革でも、それを設計・運用する側からのアナウンスなんておおよそ信用できないものだからです。権力側はしばしば、なんらかの制度改革を行ったとき、人々に対して「こんなすばらしいことをやったぞ」と喧伝します。ところがその実、人々がその新制度のメリットを享受しようとすると、実はすさまじく手間ひまがかかって事実上とてもじゃないがその制度を利用できなかったりする。結局、改革なんてしていないに等しい――というのが、古代ローマ時代から続く権力側の常套手段なんです。

 その意味で、実際に申請した元女優さん自らが情報を発信されたということには非常に大きな意味がある。実際、森下さんの公表直後、同時代に活躍した方を中心とする20人以上の元女優さんが販売・配信停止を申請しています。明らかに“森下くるみ効果”だと思いますね。

 今回の両氏の対話は、社会問題の本質を見極めて実効性のある制度を設計することがいかに困難か、という現実を改めて浮き彫りにした。全3回の最後となる次回は、AV作品とAV業界の今後あるべき姿について、両氏それぞれの立場から語っていただくとしよう。
(構成=松島 拡)

AV出演強要問題と新制度設計…文筆家・森下くるみが出演作品の販売停止申請をしたワケの画像7河合幹雄・桐蔭横浜大学法学部教授
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