篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

米国・トランプ大統領、来日は完全成功…安倍首相に花持たせ、今後の日米交渉を有利に展開

ドナルド・トランプ米大統領(写真:AFP/アフロ)

 僕は今、南アフリカで仕事をしていますが、ホテルに帰ってテレビをつけたら、ドナルド・トランプ米大統領が安倍晋三首相とゴルフを楽しんでいるCNNの映像が飛び込んで来ました。インターネットニュースを見ると、その後、大相撲の千秋楽を2人で観劇し、優勝した朝乃山関に大統領杯を授与したのこと。イギリス発祥でありながら、現在はアメリカを代表する人気スポーツとなったゴルフを2人でプレーした後に、日本の国技を観覧するために国技館に訪れる――。スポーツを通して、お互いの国々を無言で讃えている姿に、僕は清々しい印象を持ちました。

 まだトランプ氏がバリバリの実業家だったころに出版した『トランプ自伝』(ちくま文庫)が日本で売り出された当時、僕はまだ学生でしたが、すぐに買って読んだ記憶があります。僕の目を引いたのは、古いものを新しく見せて価値を上げるという手法でした。

 たとえば、ニューヨークのグランドハイアットホテルは高級ホテルとして知られ、僕も宿泊した際にはとても豪華な気分になったものですが、もともとはグランドセントラル駅のすぐそばの古びたホテルでした。このホテルの改装を引き受けたのが、駆け出しのころのトランプ氏です。限られた予算のなかで、ホテルの建物はそのまま使いながら、外壁も内装もゴージャスにして、最高級のハイアットホテルへと変身させたのが、トランプ氏のサクセス・ストーリーの始まりでした。

 しかも、ホテルが見事にリニューアルしたお陰で、当時、治安が良いとはいえなかったグランドセントラル駅周辺もイメージが大きく変わり、地域価値の上昇により、グランドハイアットホテルはニューヨークを代表するホテルのひとつとなりました。予算を最小限に抑え、最大限の効果を上げて、その価値を上げる。これがトランプ氏のやり方です。

 そんな彼が、その後、インタビューで面白いことを言っていました。

「もう要らない車を売るのであっても、車のボディーと内部を200ドルかかる特別クリーニングをしてもらえ。そうすれば、500ドル高く売れる。これがビジネスだ」

 ビッグビジネスを手がけながらも、小さなことに対してもアドバイスできるトランプ氏。そして、この2つのエピソードが、まったく同じ考え方から来ていることに、僕は感心してしまいました。

 さて、今回の来日初日の昼食では、アメリカのハンバーガーを食べ、夜は日本の居酒屋という、両方ともに庶民的な食事をすることで、アメリカ国民にも日本国民にも親しみと両国首脳の仲の良さを印象づけるような演出を成功させました。そしてトランプ氏は、自分だけでなく安倍首相にも益になるように入念に気遣いをして、その後の交渉を有利に進めていこうというビジネスパーソンらしい考え方がたびたび透けて見えます。僕は、この連載では政治的な話をしないことに決めているのですが、トランプ氏はただものではないと思わされます。同時に、物事の価値は、その見せ方によって大きく変わることをよく理解している人物だといえるでしょう。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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