上昌広「絶望の医療 希望の医療」

外科医、近い将来に大余剰で大半が失業…がん患者が急速に減少し始めた

外科のニーズは大きくは伸びない

 図1で注目すべきは、84歳以下の死亡例が2010年をピークに減少に転じていることだ。急増しているのは85歳以上の死亡だ。このことは、高齢者を対象とした認知症やリハビリ、在宅医療のニーズは増えるが、がんや心臓病などの大きな手術を受ける患者は減少することを意味する。今後、外科のニーズは大きくは伸びない可能性が高い。

 医学の進歩も外科には逆境だ。図2は胃がん患者の死亡数だ。北海道大学の津田桃子医師らの研究だ。2010年代に入り、急速に減少している。

図2

 

 これは、胃がんの原因とされるピロリ菌の感染が減ったことが原因だ。かつて日本人の多くが井戸水などを介して幼少期に慢性感染し、50歳以降に胃がんを発症していた。ところが、衛生状態が改善し、40歳以下のピロリ菌の感染率は約10%まで減った。さらに、横須賀市などいくつかの自治体は中学生のスクリーニング・除菌を実施中あるいは準備中だ。横須賀市内で内視鏡クリニックを経営する水野靖大医師は「早晩、患者さんはいなくなる」という。

 これは胃がんに限った話ではない。HPVワクチンが開発され子宮頸がんは減少するし、肝炎ウイルス対策が進み、肝臓がんもすでに急減している。心臓病ではさまざまなカテーテル手技が開発され、従来型の心臓外科手術と遜色ない成績を示している。心臓外科の需要も急減する。

 さらに、診療報酬の抑制も外科医にとって逆風だ。内科と異なり、外科は手術室の整備、そのスタッフの確保などコストが高い。診療報酬も高いが、患者が集まらなければ大赤字を出す。病院は生き残りのため、特定の診療科を中心に「選択と集中」に取り組まざるを得なくなった。

 また、2000年代に入り、マスコミが手術数などを報じるようになった。この結果、がん患者は特定の専門病院に集中した。『手術数でわかるいい病院2019』(朝日新聞出版)によれば、2017年関東地方ではトップ60の病院で6,560件の胃がんの手術を行っている。症例数が多いのはがん研有明病院538件、国立がん研究センター東病院297件、同中央病院291件と、がん専門病院ばかりだ。総合病院の代表である東京大学は116件、慶應大学は114件。外科医志望者を増やすために、女性受験者を差別した東京医大は72件だ。

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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