篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

なぜオーケストラの演奏家は、相手の声だけで感情を理解できるのか?

「Getty Images」より

 

 英ロンドン大学の准教授で心理学者のパトリック・ファーガン氏の研究によると、生演奏のライブ・コンサートに2週間に1回以上行く人は、驚くことに9年も寿命が延びるそうです。それだけでなく、今、注目されている“Well-Being”に関しては、とても高い効果があるといいます。

 世界保健機関(WHO)の憲章草案の中には、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的、精神的、社会的に満たされている状態(Well-Being)にあることをいう」と書かれています。つまり、心身とも満たされ、内外を充実している状態が“Well-Being”で、最近、日本で訳されているような「幸福度」とは少しニュアンスが違いますが、幸福な状態ともいえるでしょう。“Well-Being”は、最近は企業としての経営方針や、組織の在り方を考える目安の概念としても注目されているようです。

 ファーガン氏は、“Well-Being”に良いとされている「ヨガ」「犬の散歩」「生演奏を聴く」という3つを実際に被験者に経験させ、心理測定と心拍数のデータを取り、“Well-Being”がどれだけ上がるかを調べたところ、とても興味深い結果が出たそうです。

 予想に反して、ヨガは10%しか増加せず、犬の散歩は7%の増加にとどまりました。一方、生演奏を聴くと21%も“Well-Being”が増えただけでなく、これまでの“Well-Being”と寿命の関連性の研究結果と照らし合わせてみると、寿命が9年間延びるという結論に至りました。

 これはあくまでも“生演奏”に限ります。家でCDを聴いていても、“Well-Being”は伸びないそうです。アンケートでは、英国人の3分の2以上の人々が、「生演奏のライブ・コンサートは、家で音楽を聴いているよりも幸せを感じる」と答えているようです。ライブ・コンサートは、実際に目の前で演奏しているため、聴衆にとっても特別な体験となります。集中して聴くことも、適度な脳へのストレスになっているのかもしれません。

楽器を演奏すると認知症予防にいい?

 カリフォルニア大学統合生物学准教授のダニエラ・カウファー氏の研究によると、「過剰なストレスが慢性的に続けば心身に良くない影響が現れるが、適度なストレスがあると、むしろ脳内では、特に記憶力に良い作用がもたらされる」そうです。これはマウスの実験によっても実証されました。ストレスを与えたマウスに、記憶力の向上が見られたのです。ストレスを受けると脳内で対抗する化学物質が活発に放出され、それが脳の神経幹細胞を増殖し、脳の活動を活性化するそうです。適度なストレスは注意力を引き出し、行動や認知能力のパフォーマンスを引き上げるのにも役立つと、カウファー氏は説明しています。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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